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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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007 バージル・コンラッド②

 儂、バージル・コンラッドは風になっていた。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 オールディス侯爵家の屋敷で働いておる使用人たちが何事かと儂を見て慌てて道を開ける。おそらく、後で噂になるだろが、そんなことにかまっている場合ではない!


「ぐっ!」


 しかし、年老いた儂の体は、儂の全力疾走に付いてこない。


 脚は鉛のように重くなり、腰も鈍い痛みを訴えている。


 だが、今はそんなことにかまっている場合ではないのじゃ!


 気持ちばかりが急いでいるが、儂の体はもはやもちそうにない。


 それでもなんとか踏ん張って、儂は旦那様の執務室の扉に体当たりするようにして開ける。


「旦那様!」

「ん? どうしたバージル? そんなに急いで?」


 普通なら、こんな暴挙をすれば叱る責の上で解雇もあり得る。


 儂はこれでも貴族だからその程度で済むだろうが、平民だったら物理的に首が飛ぶだろう。それくらいの暴挙だ。


 事実、旦那様を守るように立っている老人。このお屋敷の管理を任されている家令、エイベル・ヘイウッド殿は眉を顰めている。


 しかし、旦那様、カルヴィン・オールディ侯爵は執務机で安らぐような笑顔を浮かべ、ご自慢のヒゲ先を整えていた。


 そして、そのすぐ傍には、奥方様であるクラリッサ侯爵夫人の姿もある。


 クラリッサ侯爵夫人も、珍しいものを見たと言わんばかりに扇子で口元を隠して笑っていた。


「バージル先生、些か急ぎすぎでは? 本日は先生の面会のご予約はなかったと記憶しておりますが?」

「はっはっはっ。まあ、いいじゃないか。バージルがこんなに急いでいるのだ。きっと何かあったのだろう。それに耳を貸さないほど、儂は狭量ではないつもりだ」


 儂を諫めるようにエイベル殿が言うと、旦那様は笑って許してくださる。


 やはり、旦那様はお優しい。お優しすぎるのが玉に瑕だが……。


「失礼いたしました。このバージル、すぐにでも旦那様に報告せねばと気が急いていたようです」

「いや、いい。珍しいものが見れたからな。だが、賢者とも称されるバージルがなぜそんなに急いでいたのか気になるな」

「賢者などと……」


 つい反射的に賢者という称号を否定してしまう。これはもう癖みたいなものだ。


「王宮魔導士の筆頭を勤め上げたバージルを置いて他に賢者もないだろう?」

「私は本物を知っているのです。そんな私が賢者などと畏れ多い……」


 そう。もう昔の話だが、私は知っているのだ。近隣国にまでカチドニアの魔女として名を馳せたあの方を――――。


 いや、今はその話ではない。


 もしかしたら、この国の窮状を変えることができるバケモノに出会ったのだ。


「報告いたします。本日ですが、エドワード様に魔法の授業をさせていただいたのですが――――」

「ほう! あの子が魔法に興味を持ったのか? あの子の魔法嫌いには儂も困っていたのだ」

「授業に出るようになっただけでも前進ですね、あなた」

「うむ!」


 旦那様と奥様がニコニコと笑顔を浮かべている。


 まったく、お二人はエドワード様に甘すぎる。唯一の子どもであるから甘やかしてしまうのは仕方がないのかもしれないが、それにしても限度がある。


 だが、話はここでは終わらないのだ。


 儂は震える口を何とか開いて報告する。


「私は、バケモノに出会いました」

「なに⁉ 領内にそんな危険なモンスターは――――」


 儂の報告に机を叩いて立ち上がる旦那様。


 しかし、事態はそう簡単なものではないのだ。


「違うのです、旦那様。ご子息、エドワード様はバケモノです」

「ふむ? どういうことだ?」

「理由はありますの?」


 先ほどの和やかな雰囲気など感じないまるで責めるような視線。


 それはそうだろう。お二人はエドワード様を溺愛している。


 そんなエドワード様をバケモノと言えばこうなることはわかっていた。


 しかし、儂にはそうとしか表現できないのだ!


 儂はどんどん冷えていくような心地を感じながら、自分の肩を抱き、再び震える口を開く。


「私は、若い頃に従軍し、あのお方の、シェリル様の傍で戦ったこともございます。私は……、シェリル様の、近隣国からカチドニアの魔女とも称されるお方の魔法を間近で見たことがあるのです。その私が断言いたします。ご子息、エドワード様の魔法は私の理解の外にありました。それほどまでに非常識。これをバケモノと言わずして何というのか、私はその言葉を持ちません……」


 まるで物音ひとつ立てることが許されない空間のように、執務室には沈黙が支配していた。


 その支配を打ち破ったのは、旦那様だった。


「……それほどか? シェリル様の魔法を知り、王宮魔導士の筆頭を勤め上げたバージルがそこまで言うのか?」

「見てください……」


 私は右手を旦那様に伸ばす。その手は、もう隠し通せないほど震えていた。


「私は、怖くなりました。詳細は後程紙で提出しますが、そこに書かれたものはすべて真実です」

お読みいただき、ありがとうございます!


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