006 ブレッド
「では……、エドワード様にはもう必要ないかもしれませんが、一応、魔法の基礎をお教えします……」
「はい」
なぜだろう? おじいちゃん先生はこの短時間でかなり老けてしまったように見えた。
疲れちゃったのかな?
まぁ、元々けっこうなお歳みたいだしな。立っているのも辛いのかもしれない。
でも、オレはこれでも侯爵家の嫡子だ。オレの前でだらしない姿を見せるわけにはいかないとおじいちゃん先生はがんばっているのだろう。
「先生、お辛いのでしたら、座っていただいてもかまいませんよ?」
「はあ……?」
気遣って声をかけたら、おじいちゃん先生はまるで悪い冗談でも聞いたかのような顔でオレを見た。
なんでだ?
「……ありがとうございます。ですが、大丈夫です」
「あ、はい」
あれかな? おじいちゃん先生にも矜持があるのかもしれない。生徒の前ではかっこいい姿でいたいとかそういうの。
「では、最初から参りましょう。まずはブレッドの魔法です」
「はい」
懐かしいなぁ。ブレッドの魔法。日本語訳するなら、弾の魔法だろうか?
ピンポン玉くらいの弾を連射する魔法だ。
「まず想像していただくのは、このくらいの大きさの弾です」
おじいちゃん先生が右手の親指と人差し指で丸を作ってみせた。
「多少の大きさの違いはかまいません。大切なのは連射力です。見ていてください」
そう言って、おじいちゃん先生が人差し指を二十メートルほど離れている人型の的に向ける。
すると、おじいちゃん先生の指先から次々とピンポン玉サイズの火が発射された。
発射された火弾は全部で十発。すべて木製の人型の的に命中し、その表面を焦がす。
「こんな感じですな。では、やってみましょう」
「はい!」
魔法でいろいろ作ったオレだ。ピンポン玉を想像するのは簡単だ。
だが、ちょっと待ってほしい。
本当に想像すべきはピンポン玉でいいのだろうか?
例えば、銃弾。
火縄銃の時代はたしかに弾丸はその名の通り球体だったが、時代と共に今の弾丸の形に進化している。
オレはミリオタじゃないから進化の理由なんてわからないけどさ。それでも、今現在使われている弾丸の方が優れた点があるというのはわかる。
そして、進化したのは弾丸だけじゃない。銃もだ。
例えば、ライフリング。
これによって弾丸に回転を加えることに成功した。その結果、どういう点が改善されたのかは詳しくは知らない。だが、ほぼすべての銃にライフリングされているということは、それだけ優れた効果があるということだろう。
それを魔法で再現したらどうなるだろう?
ブレッド系の魔法は、主に牽制で使われる魔法だ。重要なのは発動速度と連射力であり、あまり威力は求められていない面がある。
しかしオレの影の魔法は物理ダメージしかない。おじいちゃん先生の火の魔法のように燃えるという副次効果がない以上、ある程度ダメージを与えないと牽制にもならない。
じゃあ、威力を求めるのは当然だよね。
「よし」
オレはおじいちゃん先生の真似をして右手の人差し指を焦げた的に向ける。
想像するのはライフル弾のように尖った弾丸。そして、回転。マシンガン。
「ブレッド、ファイヤ!」
その瞬間、木製の人型が粉々に砕け散った。
しかも、それには飽き足らず、人型の後ろにあった盛り土を穿ち、土煙を上げる。
その間、実に二秒もない。
うーん。マシンガンとか想像してたからか、十発なんてすぐに撃ち尽くしてしまった。これじゃ牽制に使えないな。どちらかというと必殺技な感じだ。
おじいちゃん先生の方を見ると、まるでボケ老人のような顔を浮かべていた。
どういう感情の顔なんだろう?
でも、きっとオレに呆れているのだ。
「すみません、先生。これじゃあ、牽制に使えませんよね?」
「……あひ?」
おじいちゃん先生はまるで壊れたおもちゃのようにギギギッと音が鳴りそうな動きで首を動かして僕を見ると、あんぐりと大きく口を開けた。
なんだろう。最初登場した時はザ・魔法使いのような威厳に満ちたおじいちゃん先生だったのだが、今やただの背中を丸めた老人だ。
きっと、立っているのも辛いくらい疲れているのだろう。
今思えば、最初登場した時も壁に体を預けていたからなぁ。たぶん、少しでも体を休めていたのだろう。
それでも、先生という矜持があるのか、オレの前では決して座ったりしない。しないが、疲れているのは明白だった。
「わ、儂は、急用を思い出しましたので、本日の講義は、ここまででよろしいでしょうか?」
「え?」
やっぱり疲れているんだな。
「わかりました。お疲れ様でした」
「はい! では、そういうことで!」
オレが頭を下げると、おじいちゃん先生はこうしてはいられないとばかりに走り出す。
疲れていたんじゃないのか?
「なんだか変な人だったなぁ……。ん?」
オレはその時気が付いた。それに気付けたの本当に偶然だった。
発射したライフル弾が、砕けた的の木片の影に接していたのだ。
そこから、ライフル弾を通して、木片の影を操れる感覚があった。
実際に動かしてみると、動く。
「なるほど……。つまり、オレの生み出した影と繋がっていれば、離れた影も動かせるのか?」
これはいい発見をしたぞ!
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