046 シャーロットとの婚約式②
「カチドニア王国の守護神たるゾーイよ。今ここに若き二人の――――」
王都の大神殿。その大聖堂の中、ゾーイの像の前で朗々と祝詞を上げるこの神殿の長っぽいおじいちゃん。
そして、神妙な態度でそれを聞くオレとシャーロット。
その様子を見守る数えきれないほどの貴族たち。
だが、オレはシャーロットにかっこいいと言われたことが頭の中で何度もリフレインされて、正直、式どころではなかった。叶うなら、このまま大声を上げて走り回りたいほどだ。
しかし、それはさすがにできない。一生に一度しかないと思われる婚約式で、さすがにそんな暴挙をする勇気はオレにはなかった。ゾーイは大爆笑するかもしれないが。
「では、誓いの指輪の交換を」
うずうずした気持ちを押さえていると、いつの間にか祝詞を終えた長のおじいちゃんが、銀色の箱をオレとシャーロットに差し出した。そこには二つの指輪が置かれている。
一応、祝福を受けた指輪ということになるのかな。これをオレからシャーロットの指に填め、シャーロットもオレの指に填めると、これで婚約式は終了だ。
オレは指輪を手に取ると、シャーロットの左手をそっと持ち上げた。
チラリとシャーロットの顔を見ると、少し顔が赤い気がしたが、嫌悪の表情は浮かんでいなかったように思う。
そのことに安堵すると、オレはシャーロットの左手の薬指に指輪を填める。
指輪は、シャーロットの銀髪を思わせる銀と、シャーロットの青い瞳を思わせるサファイアの指輪だ。この日のために一流の職人に作らせた一点物である。
シャーロットは自分の左手に填められた指輪に少しだけ笑みを見せる。
そして、シャーロットは長のおじいちゃんの持つ箱から指輪を取り出すと、オレがしたようにオレの左手の薬指に指輪を填めた。
指輪はオレが黒髪だからか、真っ黒で不思議な光沢のある指輪だった。何の素材かはわからないけど、ファンタジーな金属だろうか? でも、オレが想像よりも痩せていたのか、ちょっと指輪がぶかぶかだった。
落とさないように気を付けないとな。
「ここに婚約は成された! 守護神ゾーイに感謝の宴の準備を!」
指輪の交換が終わると、長のおじいちゃんがそう宣言する。
すると、腹の底まで響くような大量の拍手の雨が降ってくる。
それと同時に、大神殿の外からもわーわーと歓声が聞こえた。
そして、オレやシャーロット入ってきたドアがバーンとフルオープンして、どんどん料理やお酒が運ばれてくる。
あれよあれよいう間に、荘厳な大聖堂は立食パーティの会場になってしまった。
主賓であるオレとシャーロットには椅子が用意され、そこに座ると父上や母上、国王や不機嫌そうな少年がやってきた。
椅子に座ったけど、すぐに立つことになったな。
「エドワード、シャーロット、婚約おめでとう。祝いの言葉は無限にも近いほどあるが、今は後がつかえているからな。此度はこれだけにしておこう。二人とも、本当におめでとう」
「ありがとうございます、陛下」
「ありがとうございます、お父様」
まずはクリスティアン陛下からの祝いの言葉を受け、そのあと、父上と母上がオレたちの正面に来る。
「二人ともおめでとうございます。シャーロット殿下、自慢の息子ですが、よろしくお願いします」
「あなたったら、そこは普通、不肖の息子ですよ」
「いや、エドワードは自慢の息子だからね。嘘は吐けないよ」
「まあ! お二人とも、おめでとうございます。これから大変ですけど、がんばってくださいね」
「ありがとうございます、父上、母上」
「ありがとうございます、オールディス侯爵、侯爵夫人」
母上が大変と言ったのは事実である。オレたちは、ここに集まったすべての貴族からお祝いの言葉を受け取らないといけないからな。そりゃ時間がかかるし、その待ち時間を潰すために立食パーティもするよなぁ。
まぁ、ゾーイは楽しい空間が大好きと言われているからという面もあるだろうけど。
それから、オーケストラの奏でる楽しい音楽が響く中、爵位の高い順にどんどんお祝いの言葉を受けていく。
今回は派閥に関係なく、とにかく多くの貴族を呼んだのか、初見の貴族の多さに驚く。
だが、中にはオレのよく知る貴族家があったりした。それは、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』に登場した貴族家だ。あの登場キャラクターたちの子孫がいるというだけでテンションが上がってしまう。
参列者が多いことはみんな承知の事実だ。みんな言葉短く自己紹介と祝辞を述べていく。オレとシャーロットはそれにお礼を言っていく。
これをただの作業と思ってはいけない。参列者のほとんどは貴族家の当主だ。その当主が自己紹介してくれる機会などそうそうあるものではない。がんばって名前と顔を一致させないとな。
その時、大神殿の外からひときわ大きな歓声が響いた。
「どうしたんだろう?」
「民衆にも食事とお酒を振る舞っているのよ」
「はえー」
こういうことの積み重ねが、王家への好意へと繋がっているのかもしれないなぁ。
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