043 クライヴ・エイデン
「ふむ。では、少しだけ見方を変えてみよう」
「見方を……?」
拳をギュッと握ってオレに意見した女の子が少しだけ首を傾げた。たしか、伯爵家の女の子だったかな? さすが上級貴族と言われる伯爵家の女の子だ。ちゃんと自分の意見を持っているということだろう。
いじめられていた女の子は、オロオロしながらオレと伯爵家の女の子を見ていた。
「キミの言う通り、この子の家はまた所属する派閥を変えるかもしれない」
「でしたら――――」
「その時は、自分たちの派閥に所属する魅力がなかったってことで諦めるさ。そして、ここからが重要なんだが、この子の家みたいに所属する派閥を変える家があったら、みんなが前に所属していた派閥の情報を欲しがるだろ?」
「それは、まぁ……」
「それでいいんだよ」
「どういうことですの?」
伯爵令嬢が今度は本気で困惑している。言葉が少なすぎたか。
「つまり、派閥の情報を敢えて漏らしてもらうのさ」
「エドワード様、そんなことをして何のメリットがあるのですか?」
今度は子爵家の男の子が訊いてきた。
たしかに、聞き方によっては、自分たちの派閥には何のメリットもないように聞こえるだろう。
「ここから見方を変える必要がある。つまり、この子たちのように所属する派閥を変える家の貴族には、派閥の情報を他の派閥に教える役割がある。では、なぜそんなことをするかだが、わかる奴はいるか?」
気が付けば、いじめっ子といじめられっ子の図式はなくなり、まるでオレが授業をしているような雰囲気になってしまった。
そんな雰囲気が気になるのか、子どもたちや大人たちまでオレたちの様子を見ている。
「わかりませんわ……」
「わたくしもです……」
「僕もわかりません……」
うぅーん。この子たちも十歳くらいだし、わからなくて当然か。たぶん、そもそもまだ習っていないからいじめが起きちゃったんだし。
「実は、派閥を変える貴族たちに情報を持たせて、他の派閥に知らせると、自然と派閥同士の衝突が減るんだ。何を考えているかわからない奴より、ある程度考えを知ってる奴の方がしゃべりやすいだろ? だから、所属する派閥を変えて、他の派閥の情報を知らせる貴族の存在は必要なんだよ」
まぁ、実際は自分の利益を一番に考えて所属している派閥を変える貴族もいるだろう。
だが、今回のお茶会は、母上からの招待状がないと来ることができない。つまり、このいじめられていた女の子の家は、母上から招待されたということだ。そこには何かしらの理由があるはずである。
まぁ、情報を持って行ってもらう伝書鳩のような役割を期待されているのか、それとも本当に派閥に所属してほしいと思われているのかはわからないけどね。
「なるほど……。自分の浅学さを恥じ入るばかりですわ……。まさか、風見鶏と言われる下級貴族にそんな役割があったとは……」
「僕も知らなかったです。エドワード様は物知りなんですね!」
「その、ごめんな。知らなかったとはいえ、ひどいことをしてしまった」
「わたくしも、ごめんなさい」
「あの? い、いえ! みなさまたちが謝ることでは⁉」
次々と謝るいじめっ子たち。さすが、厳しく躾られている貴族の子どもたちだね。自分の過ちを認めて謝ることのできる良い子たちだ。
「まぁ、そういうわけだ。誤解が解けてよかったよ。今日のお茶会は楽しいものにしたいんだ。じゃあ、よろしく頼むよ」
この世界に印刷機なんてものはない。お茶会への招待状も一つ一つ手書きだし、お茶やお菓子だって決してタダじゃない。むしろ、目玉が飛び出そうなほどに高い。
つまり、このお茶会はめちゃくちゃ手間とお金がかかっているのだ。絶対に成功させないとね!
◇
「やれやれ、噂とは当てにならないな……」
私は、恐れ多くも陛下から男爵位を賜っているクライヴ・エイデン。
そんな私は、たった今見た光景に開いた口が塞がらない思いがした。
私の娘、チェルシーが他の貴族の子どもたちに囲まれているのを発見したのはついさっきのことだ。助け出そうとしたところで、私よりも先に動いた少年がいた。
エドワード・オールディス。今回のお茶会の主役である少年だ。
あの堅物で知られるシャーロット殿下との婚約を取り付けた少年。今この王都で一番ホットな話題の主人公だ。
噂では、あの厄介なアーミーアントを駆除したとか……。
さすがに話が盛られているだろうが、十歳でモンスター相手に戦闘したのはどうやら事実らしい。実に頼もしい少年だ。
そんな少年だが、どうやら頭も切れるらしい。
エドワード少年はいじめの原因を知ると、それを瞬く間に解決してみせた。本当に十歳なのか疑問に思うほどの話術だった。
ふと娘のチェルシーを見れば、頬を染めて切なそうな表情でエドワードの後姿を見送っている。娘のあんな表情は初めて見た。
どうやらエドワード少年は、私の感心だけではなく、我が娘の心まで手に入れたようだ。
だが、エドワード少年にはもうすでにシャーロット殿下という婚約者がいる。
「ふむ……」
とはいえ、侯爵家ともなれば第二夫人、第三夫人を持つことも当たり前だ。
その時の娘の気持ち次第だが、ねじ込んでみるのもいいかもしれない。
そのためには、まずは派閥に所属し、功績を挙げなければな。
長年相応しい主君を持つことを夢見て漂っていたエイデン男爵家の旅も私の代で終わりかもしれない。
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