039 シャーロットは人気者
「これを……?」
シャーロットが不思議そうな顔でオレの渡したライフル弾を見ていた。
魔法があるからか、物理学がそんなに発展していないこの世界では、まだこの形に、回転の意味に気が付ける人間はまずいないだろう。
「これを回転させると言っていたわね? そのことにどんな意味があるの?」
「えっと……」
とはいえ、オレだって結果を知っているだけで、なぜ銃弾がこの形になったのか論理立てて説明することはできない。
「それは……そうだなぁ。例えば、針ってあるじゃない? あれって鋭く尖っているよね? だから物に刺さる。そして、回転は……。回転すると、軌道が安定するんだよ。うん」
「そうなのね。でも、あなたのこれは尖ってはいるけど、針のように尖ってはいないわよ?」
「え? あー……。細くしすぎると、脆くなっちゃうだろ? ちょうどいい塩梅がこの形だったんだ」
よくもまぁこんなに適当なことがしゃべれるなぁ。自分でも感心してしまう。
でも、オレにこんなに質問してくるということは、シャーロットは自分でも強くなりたいと思っているはずだ。婚約者として、その思いに応えないわけにもいかないだろ。
それに、シャーロットが強くなるのは、これから戦乱が起きるであろうことを考えると、オレにとってもプラスに働くだろうしね。
「そうなの。あなたって意外と物知りなのね」
僕のいい加減な言葉を信じてしまったのか、シャーロットは本人も言った通り、意外そうな顔でオレを見ていた。
「意外とって、ひどいなぁ……」
「そう? あなたって何も考えていなそうな顔をしているわよ? そう見られるのが嫌なら、もっとキリッとした顔をしなさい」
「キリッ!」
「……やっぱり痩せないとダメね」
「あ、はい……」
そうだよね。オレみたいなデブがキリッとしたところでかっこよくなるわけないもんね……。
絶対に痩せてやる!
◇
それから二日後。
そんなこんなで馬車での移動も終わりに近づいてきた。
土だった道は、いつの間にか石畳に変わり、遠くにはどこまでも続く石造りの防壁が見える。その防壁の奥には、白亜の城の上半分くらいが見えた。
この壁の向こうが王都クレイヴン。そして、カチドニア城だ。
「帰ってきたのね……」
馬車の中で、シャーロットが感慨深そうに呟く。
シャーロットにとっては、およそ一か月ぶりぐらいになるのかな?
そりゃ感慨に浸るのもわかる。
シャーロットの乗る馬車の隣、オレは馬に乗って石畳の道沿いに進む。見えてくるのは防壁にぽっかりと開いた大きな門だ。門の前にはお昼だというのにたくさんの人が並んでいる。
それだけじゃない。王都の門の周りには、小規模な町ができていた。
まぁ、町というような洗練された感じではなく、バラック小屋の集合体という感じだ。たぶん、王都に入れなかった人々が暮らしているのだろう。
もしくは、商人たちが王都に入って税金を取られる前に商品を売ってしまおうと考えて作った商店街のようなものだろう。
そんな町を通り抜け、王都に入ろうとする人々を横目に馬車列は進んでいく。
こっちにはシャーロットがいるからね。並ばなくてもそのまま貴族専用の出入り口から入れるのだ。
「おお!」
「あれは!」
「王家の紋章だぞ!」
「ありがたや、ありがたや」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
シャーロットの乗った馬車に刻まれた王家の紋章。それを見た人々が祈るような仕草をしたり、万歳したり、中には手に持った武器を高く振り上げる者もいた。
そんな人々に対して、シャーロットは馬車の窓に付けられたカーテンを開けて、微笑んで手を振っていた。
「おおおおおおおお!」
「シャーロット姫様だ!」
「シャーロット姫様万歳!」
「シャーロット姫様万歳! カチドニア王国万歳!」
「守護神ゾーイの加護を!」
カチドニア王家の、シャーロットの人気はすさまじいの一言だった。
こんなに国民から人気があるのは、やっぱり救国の英雄であるシェリルの血のなせる業だろうか?
やっぱりね、シンデレラストーリーってこの世界でも人気なんだと思う。だって、平民にも劣る貧民だったシェリルが、国を守るために奮闘し、ついには王族と結婚したなんてロマンがありすぎるからね。
そんなシェリルのことがみんな大好きだし、シェリルの血を引くシャーロットも人気なのだろう。
そんなことを考えながら門をくぐると、大きな円形の広場に出た。広場の周りでは、一気に建築レベルの上がった建物たちが出迎えてくれる
それに、溢れんばかりの人々と、馬車。オールディス侯爵領も栄えている方だとは思っていたけど、上には上がいるらしい。
そこにいる人々も、シャーロットの乗る馬車を見ると、足を止めて拍手を送ったり、歓声を上げる。
それに優雅に手を振って応えていくシャーロット。
その人気には、正直驚かされるばかりだ。
この国民からの人気は、王家への支持率として考えることもできるだろう。
そう考えると、国難が待っている現状にも少しだけ光が見えるような気がした。
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