038 アーミーアント殲滅後
アーミーアントを遭遇するというアクシデント、まぁ、オレにとってはただの嬉しいイベントがあった後。無事に一夜を明かしたオレたちは、再び王都に向けて出発した。
この日から、オレは馬車を飛び出して馬に乗って移動することにした。
乗馬ダイエットってあるよね? あれを思い出したのだ。
馬に乗る機会があるなら、ダイエットする機会があるならやるべきだろう。
でも、仲が悪いと噂されても困るので、シャーロットの乗っている馬車と離れるのはやめておく。
オレはシャーロットの乗る馬車に並走するように馬を走らせていた。
オレの乗っている馬は、気性の大人しい牝馬だ。オレ専用の馬である。父上の指示で一応連れてきていたらしい。やっぱり父上は頼りになるね。
「それで、エド? あなたはバレットの魔法を放つ時、何を考えているの? 何をイメージしているの? 答えてちょうだい」
「えぇーっと……」
そう尋ねてくるのは、馬車の窓際の席に座ったシャーロットだ。シャーロットは窓を開けて、身を乗り出しながら訊いてくる。そんなことをするものだから、風でせっかくフランシスが整えた髪が乱れていた。
シャーロットは、オレが魔法を使うとき何を考えているのか、何をイメージしているのか知りたいらしい。
オレも答えられるなら答えてあげたいけど、オレのイメージは前世のマシンガンや戦車の大砲などである。シャーロットの質問には、どう答えたらいいだろう?
実物を見せることはできないからなぁ……。
「まず、速さとは力なんだ。そして、力がかかる面が小さくなるほど、圧力が上がる。ここまではいい?」
「? あなたは何を言っているの?」
「あぁー……」
どうやらこの国では物理学があまり一般的ではないらしい。少なくとも、王女であるシャーロットは知らないようだ。
となると……。何か身近なもので例えた方が早いか?
「例えばだけど……」
オレは馬の手綱から右手を離すと、右手に黒いボールを生み出した。
「いくよ?」
オレは、生み出したボールをシャーロットにポイッと優しく投げてみる。
シャーロットは驚きながらもちゃんとボールをキャッチした。
「い、いきなり何なのよ?」
「ごめん、ごめん。でも、ボールを受け止めた時、手は痛かった?」
「痛くはないけど……。これとあなたの魔法って関係あるの?」
「関係大ありさ。シャル、今度は顔の前に手を伸ばして、手のひらはこっちに向けてね」
「え? ええ……」
疑問に思いながらも、シャーロットはオレの言う通りにしてくれる。
「今度はちょっと痛いかも。覚悟してね?」
「はい?」
疑問の声をあげるシャーロットの手に向かって、オレは先ほどの同じサイズのボールを創り出すと、ほどほどに強めで投げる。
「いった⁉」
ベチッと痛そうな音を立てると、ボールはシャーロットの手に弾かれてどっかに飛んでいった。
「ちょっとエド! 何するのよ!」
「まぁまぁ落ち着いて。さっきのボールと今のボール、どっちの方が痛かった?」
「今の方よ! まだ手がジンジンするわ……」
「さっきのボールと今のボール、大きさも重さも同じだよ。でも、なんで痛さに違いが出たんだろう? シャルはわかる?」
「あなたが思いっきり投げたせいでしょ! ひっぱたくわよ!」
「そんなに怒らないでよ……」
さすがにオレもシャーロットにひっぱたかれたくない。
「さっきのボールと今のボール、何が違うと思う?」
「あなたがボールに込めた力じゃないの?」
「確かにそういう見方もできるけど、その結果何が変わったかな?」
「結果……?」
シャーロットが不思議そうに首を傾げている。シャーロットは基本的に冷たい無表情だけど、オレの前では少しだけ素の表情を見せてくれるようになった。それが嬉しい。
「そう。結果だ。たしかに、オレは二回目に投げたボールには少し力を込めたよ。その結果、ボールが速くなったんだ」
「速く……。それはそうでしょうけど、それがどうかしたのかしら?」
「最初に話したでしょ? 速さは力なんだよ。つまり――――」
「速ければ速いほど、魔法の威力が増す……?」
やっぱりシャーロットは頭がいいね。もうオレの言わんとすることがわかり始めている。おそらく、オレ以上に頭がいいのだろう。
偉そうに語っているオレだけど、オレもあまり物理に関しては詳しくないからね。
「そうなんだ。だから、オレは目に見えないほどの速さで魔法を使っている。それと、もう二つ工夫をしてるんだ」
「二つも? それって?」
「一つはこれだよ」
そう言ってオレはシャーロットに手に持った影で創ったあるものを投げ渡す。
「これって……何?」
それは、見る人が見ればわかるだろう。オレがシャーロットに渡したのは、ライフル弾をイメージして創ったものだ。オレがバレットの魔法で実際に撃っているものである。
「オレはバレットの魔法で、これを回転させながら高速で撃ってるんだ」
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