033 アーミーアントと接敵
私の主人であるオーレリアお嬢様のミスだ。
ならば、従者である私が償うべき。
頭ではわかっている。でも、やはり怖い。
アーミーアントは決して諦めずに私を追いかけるだろう。
そして、私は誰にも助けを求めることも許されず、独り寂しく死ぬことが決まってしまった。
オーレリアお嬢様への怒りよりも、ただただ悲しかった。
私は何のために生まれてきたのだろう?
自分がわからなくなってしまう。
しかし、私の献身でシャーロット殿下の安全が確約される。
それだけが私の、私だけの功績。
ならば――――!
「チェスター様、今までお世話になりました……」
「ライラ、キミの献身を決して我々は忘れない。務めを果たせ」
「かしこまりまし――――」
「その必要はない」
私の最後の言葉。それを遮って現れたのは、押せば転がってしまいそうな体型の糸目の少年でした。
糸目? お肉に圧し潰されて強制的に糸目になっているのでしょうか?
何の冗談なのか、その少年は私には価値がわからないくらい高価な黒い服を着ていました。
もしや、シャーロット殿下の婚約者となったエドワード・オールディス様?
なんだか不穏な空気のお方です。
シャーロット殿下ほどではありませんが、私たちの護衛対象です。
その方がどうしてこんな所に?
◇
馬車から降りたオレがやってきたのは、アーミーアントへの対策を協議している最中の近衛兵たちの集団の中だった。
話を聞いていると、どうやらまだ若い少女が人柱としてアーミーアントの進行方向をずらそうとしているらしい。
そこに待ったをかけたのがオレだ。
そんなことをしたら、オレがアーミーアントを倒せなくなってしまうではないか。そんなことは断固としてお断りである。
レベルアップの機会をこんな形でみすみす失いたくないし、シャーロットの期待にも応えたいしね。きっと、シャーロットもこんなことは望んでいない。
「貴殿は……エドワード・オールディス。なぜこんな所へ? ここにはもうじきにアーミーアントが来襲すると伝令を走らせたはずですが……」
この人がシャーロットを護衛する近衛兵のリーダーなのだろう。おじいちゃん近衛兵に向かってオレは口を開く。
「ああ、聞いたよ。オレはアーミーアントを殲滅しに来たんだ」
「ッ⁉」
「なん⁉」
「は……?」
その瞬間、近衛兵たちの間に走ったのは驚きと困惑だった。
まるで予想外のことを言われたと言わんばかりの態度だ。
それだけで、この世界でどれほどアーミーアントが危険視されているのかがわかるというものだね。
「だから、アーミーアントの居場所を教えてくれないか?」
「な、なにを――――」
「チェスター様! もう限界です! 早くここも放棄しなければ!」
その時だった、近衛兵たちのリーダーらしき人物の言葉を遮って、近衛兵の一人が走って報告に来た。
たぶん、走ってきた方向に行けば、アーミーアントに出会えるだろう。
「ふむ。もう欲しい情報は手に入れた。では、オレは行くよ」
「ま、待て! どういうことだ⁉ シャーロット殿下の婚約者である貴殿がなぜこんなことをする⁉ シャーロット殿下はこのことご承知なのだろうな⁉」
「シャーロット殿下のご了承はもう得ているよ」
「そんな――――⁉」
オレの独断ではなく、シャーロットの許可があったというのが衝撃だったのか、チェスターと呼ばれたリーダーは仰け反るような勢いで驚いている。
オレの言葉がそんなに衝撃的だったのか、周りにいる近衛兵たちもざわざわとし始めた。
でも、すべてはオレには関係ない。
オレは報告に来た近衛兵が走ってきた方向へと足を向けて歩き始める。
すると、チェスターと呼ばれたおじいちゃん近衛兵がオレを制止しようと横並びになって叫び始める。
「シャーロット殿下もキミもアーミーアントを甘く見ている! たしかに、奴ら一体一体は強くはない。だが、その最大の脅威は個の強さではなく、その数にあるのだ! あくまでも概算だが、今回のアーミーアントの群れは二千体は下らんのだぞ! そんな数を倒せる兵力はない! なぜそれがわからない! キミのやっていることはただの自殺ではない! 場合によっては王族の殺害未遂の罪に問われるような暴挙だぞ! いくらオールディス侯爵家でも、キミを庇い切れない! 考え直せ! 歩くのをやめろ! 止まれ! 話を聞いているのか⁉」
「うるさいな……」
「なッ⁉」
きっとこのおじいちゃん近衛兵は、オレの心配をしているのだろう。
だが、すべてはお門違いだ。
シャーロットの許可をもらったのだ。オレは何を言われてもやるつもりである。
シャーロットの覚悟に応えたいし、目の前の経験値が欲しい!
「そんなに言うなら、シャーロット殿下の護衛でもしていればいい。オレが討ち漏らしたら、出番があるだろう」
まぁ、そんなへまはしないがね。
「ほお?」
森の木々に夕日が遮られた闇の向こう。そこにはそれこそ数えるのも億劫になるほどの敵意を感じた。
いいね。楽しくなってきた。大人しくオレの経験値になれよ。
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