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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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30/42

030 敵襲の軍隊アリ

「確認してまいります!」

「ここで待っていた方がいいよ」


 今にも馬車を飛び出ていきそうなフランシスにオレは待ったをかけた。


「ですがそれでは――――」

「シャルはこの馬車列の中でも一番高貴な人間だ。事実は違うけど、シャルが近衛兵を率いていることになっているはず。つまり、今のシャルは近衛兵たちの指揮官でもあるんだ。そのことは近衛兵たちもちゃんとわかっているはずだよ。指揮官であるシャルに現状報告がないのは絶対にありえない。こちらから行かなくても、近いうちに報告が来るよ」


 オレの言葉を待っていたわけではないだろうが、すぐにコンコンコンッとノックの音が飛び込んできた。


 たぶん、近衛兵が報告に来たのだろう。


 しかし、ここからはちょっと予想と違った。


 フランシスが開ける前に、いきなりガチャリと開けられる馬車の扉。そこには、白銀に輝く鎧を身に着けた細身の女性がいた。


 いくら近衛騎士とはいえ普通王族の、それも女性王族の馬車をいきなり開けることなんてしないだろう。これはそうとう厄介なことが起きたな。


 女騎士はひどく慌てた様子でその場に跪くと、顔を伏せたまま大声をあげる。


「ご無礼をお許しください! ただいま、周辺の警備に出ていた者がアーミーアントの集団がこちらに向かっているのを発見いたしました! ただちにご避難を!」

「ッ!」

「アーミーアント! それは本当か⁉」


 息を呑むフランシスを押し退けるようにして、オレは女騎士に確認する。


「は、はい! ですから――――」

「まさか、アーミーアントに出会えるなんて! しかも、集団? はぐれアーミーアントじゃないよな⁉」

「現時点で断言はできませんが、おそらく本隊がいると思われます!」


 女騎士がオレを少しだけ目を細めて見上げながら報告する。


 そうだね。この女騎士は近衛兵。それも、シャーロットの護衛を任せられるほどの近衛兵だ。きっとエリートなのだろう。


 主であるシャーロットに報告しようとしたら、横から変なのがしゃしゃってきたのだから迷惑この上ない。


 だが、今のオレにはそんなものはどうでもいい。だって――――!


「なんたる幸運! なんたる幸運! まさか、アーミーアントの本隊に出会えるなんて! がんばってダイエットした甲斐があったってやつかな? こんな奇跡、もう二度とないよ!」

「はあ?」

「な、なにを……?」


 大喜びするオレを見て、女騎士はその奇麗な顔で間抜け面をさらし、フランシスに至ってはまるで狂人を見るような目でオレを見ている。


 なんでそんな顔してるの?


 だって、アーミーアントの本隊に出会えたんだよ? どうして喜ぶことができないだろうか? いや、どう転んでも喜ばざるをえない状況だ!


「エドワード・オールディス! まさか貴様、何か知っていたのか⁉」


 オレのあまりの豹変ぶりに驚いたのか、女騎士がいつの間にか剣を抜いてオレに突き付けていた。その顔には何か焦りのようなものが浮かんでいるような気がした。


「何を言ってるんだ? アーミーアントの本隊がいるんだろ? なぜ喜ばない?」


 オレだっていきなり剣を向けられた意味が分からない。


 なんでこんな幸運な状況なのに、誰一人として喜んでいないのだろう?


 振り返ると、あまり負の感情を表に出さないシャーロットが、まるで怯えているように見えた。


 何か、決定的にみんなとの感情がズレている。


「答えろ、エドワード! このことをオールディス侯爵は知っているのか⁉ まさか、姫様を亡き者にしようと企んでいたのではないだろうな⁉」

「えぇーっと……。何を言ってるんだ?」


 企み? 父上? シャーロットを亡き者に?


「ああ……」


 それらの情報がオレの脳内に入り、やっとみんながなぜ怯えているのかがわかった。


 アーミーアント。


 それは、個にして軍。一匹の大きさはゴブリンとほぼ同じ一メートルほどだが、決して油断できるモンスターではない。一匹攻撃すれば最後、軍が消滅するその最後の一匹まで攻撃をやめない狂気のモンスターだ。


 ゲームでは、アーミーアントは頻繁に「仲間を呼ぶ」をコマンドし、アーミーアントを表示上限まで召喚する能力がある。


 ただ、ゲームにはチェーンという機能があり、一回の戦闘で大量のモンスターを倒すと、貰える経験値にボーナスが付いた。


 そのアーミーアントの特性とチェーンを利用した効率のいいレベルアップ方法が発見されるのは時間の問題だっただろう。


 むしろ、制作陣は初心者救済のために敢えてアーミーアントというモンスターを作ったのではないかという説まであるほどだった。


 だが、貴人を護衛している近衛兵からしたら、危険なモンスターであることには変わりはない。


 それに、ゲームではHPやMPは限りはあったが、体力や精神力のようなものは消費しなかった。


 それゆえに、アーミーアント狩りが横行したのだ。


 だが、この世界はゲームのようでいて現実だ。体力にも精神力にも限りがあるのはもちろん、延々と戦闘を強いられるアーミーアントなんて、一匹一匹は弱いとはいえ一番避けたいモンスターだろう。

お読みいただき、ありがとうございます!


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