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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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029 警笛

 途中の村々で泊まりつつ、オレたちの王都への旅は続いていく。


 前にカーラに聞いた時は、王都まで馬車で四日と言われたけど、今回は七日かかるらしい。


 まぁ、オールディス侯爵家から王家への献上品とかいろいろ荷物が多いからね。それに、オレたちを護衛する者たちもいるし、人数が増えればそれだけ進行速度が遅くなるのは仕方がない。


 そんな中、今回は近くに村がないので、森の中の川の畔で野営することになった。


 お昼過ぎくらいにはもう進むのをやめ、野営の準備に取り掛かる。


 たぶん、この先に今日中に行ける範囲に水を確保できる場所がないのだろう。


 オレたち人間も水が必要だけど、馬にも水が必要だ。


 こちらの世界に来て初めて知ったけど、馬ってかなり水を飲むし、干し草も大量に食べる。馬の維持費だけでもかなりお金がかかりそうだ。


 川岸に沿うように、簡易な屋根だけのテントのようなものが次々と建てられていく。


 オレたちは馬車の中で寝ればいいけど、護衛たちが寝る場所も必要だ。雨が降ってもいけないのでこういったテントが必要なのだろう。


 馬車で寝ればいいとは言ったけど、この馬車にはオレの他にもシャルとフランシスがいる。シャルとオレが一緒の馬車で寝るわけにはいかないので、夕食を食べたら一度別れないとな。


「シェリルおばあ様はわたくしにいろいろなことを教えてくださったわ。一番の敵は自分の中におり、一番の味方も自分の中にいる。わたくしはこの言葉の意味をよく考えているの」

「一番の敵は自分の中……か」


 相変わらず、シャルとはシェリルの話で盛り上がっていた。


 貧民街出身のシェリルは救国の英雄になり、王族としてその一挙手一投足が注目されるまでになった。


 オレの想像以上に、シェリルはこの国に大きな影響を与えている。


 その一つが、シャルが持っているシェリルの格言集だ。


 なんと、シャルがシェリルの孫だから特別に持っているのかと思ったけど、普通に本屋で売っているらしい。オレも王都に着いたら買わないとね。


 というか、シェリルの格言集が普通の一般市民でも買えるというのにも驚くけど、この国でのシェリルの愛され具合がすごいね。


 まぁ、救国の英雄だし、実際にシェリルに助けられた人々や共に戦った人々が大勢いるのだろう。その分だけ、シェリルの影響力が強いのかもしれない。


 しかし、この本にはシェリルの残した意味深な格言は載っているけど、その意味は解説されていないらしい。シェリルもその答えについてはシャルが聞いても答えなかったほどだ。


 たぶん、自分で考えてねということだろう。もしくは、自分の思想を押し付けるような真似をシェリル自身が嫌ったのかもしれない。


 だから、シャルは言葉の意味について考え、オレの感想を聞こうとしているのだ。


「オレは、一番の敵は臆病な自分だと思う。そして、一番の味方、それは勇気だ。弱気になってしまう臆病な自分を勇気でねじ伏せて、シェリル様は戦ってきたんだと思うよ」


 実はこれ、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』で実際にシェリルが言っていた言葉でもある。


 敵軍への夜襲の直前、仲間であったアルジャーノン第四王子に贈った言葉だ。


 アルジャーノン第四王子は、初陣でボコボコに負けて、自信を喪失していた。指揮官であるアルジャーノンがそんな状態では、士気にもかかわる。そう考えたシェリルは、アルジャーノンに会いに行くのだが、そこでアルジャーノンは弱音を零すんだ。


 そんなアルジャーノンに贈った言葉。それが一番の敵と一番の味方の話である。


 シェリル自身も戦争は怖いと語り、それでも助けたい人々が、故郷があると語ってみせた。


 女傑と呼ばれ始めていたシェリルの意外な弱い一面を知って、アルジャーノンは奮起する。


 戦いを前にいくら手が震えるほど怖かろうと、それを決して部下には見せず、豪胆な王族を演じ切ってみせた。


 それが味方の士気の上昇にもつながり、常勝無敗のシェリル軍を間接的にサポートする。


 実はこれ、ゲームでは選択肢でアルジャーノン第四王子に贈る言葉を選択できる。


 この世界では、後にアルジャーノン第四王子と結婚したから、たぶん正解はこれだろう。


「なるほど。あなたはそう考えるのね。わたくしは――――」


 シャーロットがそう言いかけた時、まるで汽笛のような高い音が辺りに鳴り響いた。しかも、その数は何重にも増えていく。


「これは――――」

「姫様⁉」

「警笛!」


 このやかましいまでの笛の音は、どうやら警笛の音らしい。


 警笛ということは、注意を促すほどの何かがあったということだろう。しかも、王族の乗る馬車の中でも聞こえるということは、それは今いる護衛たちだけで処理しきれないと判断されたらしい。


 さて、どうするのが正解か。


 この馬車列の護衛は、シャーロットの護衛である近衛兵と、オールディス侯爵を守るオールディス領軍の混成部隊だ。


 つまり、命令系統が分かれた二つの護衛集団なのである。

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