027 氷姫
主人公。
公式ページでも謎に包まれていた存在。その正体が男か女なのかもわからないけど、このカチドニア王国の国難を打開するためには絶対に必要不可欠な存在だ。
それがわかれば、かなり自分が生き残るのも楽になると思うのだが、オレは誰が主人公なのかわからない。
ただ、ヒントはある。
『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』では、貧民街出身の平民少女、シェリルが主人公だった。
シェリルは魂の魔法の有用性を認められ、学園に入ることを許された特待生だ。
『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』は、ただの戦闘ゲームではなく、平民からも下に見られる貧民の少女、シェリルの立身出世の物語だ。
ゲームではそのエピローグはいくつかに分岐していたが、この世界のシェリルは王族と結婚して国母になったらしい。
まさに、救国の英雄になったわけだね。
ということは、続編の主人公も放っておけば勝手に敵を撃退して、カチドニア王国に勝利をもたらしてくれるかもしれない。
問題は、オレが主人公の容姿も名前も性別すらも知らず、どんなストーリーが展開するかもわからないことだろう。
もし、オレが主人公の邪魔をしてしまったら?
そのことが原因でバタフライエフェクトでカチドニア王国の勝利が消えてしまったら?
そんな学園生活怖すぎるだろ。人間不信になっちゃいそうだ。
でも、オレはオールディス侯爵家の時期当主。学園に通わないという選択肢はない。
学園が始まるのはこれから二年後。
それまでに何か対策を立てる必要があるな……。
それに、オレに立っていると思われる死亡フラグの問題もある。場合によってはこっちの方が重要だ。
「ぐぬぬ……」
どっちにしても、情報が足りなすぎる。これ以上考えても仮定に仮定を重ねるだけになりそうだ。
「また唸ってるわね。そんなに緊張しているの? 大丈夫よ。婚約者の選択に関してはわたくしに一任されているし、お父様もお母様も怖い人ではないわ。でも、お父様とお母様の前では敬語じゃないといけないわよ?」
唸っていたら、シャーロットがそんなことを言い出した。
そうだった。オレは王都でカチドニア王国の王様とお后様に会うんだったな。シャーロットは、そのことでオレが緊張しているように見えたのだろう。
まぁ、たしかに緊張はする。だって、前世では社会の底辺だったからなぁ。オレの中の日本人庶民ソウルが怯えているのを感じる。
でも、今のオレは侯爵家の時期当主だし、シャーロットの婚約者だ。無様な姿を見せるわけにはいかない。
「まぁ、がんばってみるよ。オレは、シャーロットの隣に立つのに相応しい男になるって誓ったからね」
「その意気よ」
最初はどうなることかと思ったけど、シャーロットともずいぶん打ち解けた気がする。
初めて見たシャーロットはずいぶん冷たい印象がしたものだけど、意外と年相応のところとかあったり、かわいらしい一面もある。とくにシャーロットは肌が白いから、赤面するとよくわかるところとかめちゃくちゃかわいいと思う。
本人は平気なフリがしたいのに、肌の色で他人には丸わかりというのがかなりかわいいポイントが高い。
それに、オレから見てもわりとシャーロットがこの婚約について乗り気だというのがわかって嬉しかった。
最初はオレがシャーロットの試験をクリアしてしまったから、仕方がなくオレを婚約者として認めてくれたのかと思ったけど、シャーロットを見ていると、どうもそうではないみたいだ。例えば痩せろというように命令することもあるけど、それ以上に助言をくれる。
今だって、オレが緊張していると思って、緊張を解きほぐそうとしてくれた。この優しさに報いるためにも、オレは痩せて少しでもイケメンにならないとなぁ。
父上はヒゲに並々ならないこだわりを感じるけどイケメンだし、母上も美人だ。この二人から生まれたオレが本当はイケメンである確率も高いのではないだろうか?
まぁ、今は押せば転がりそうなほどの肥満児だからイケメンには程遠いけどね。
「シャルって一見冷たそうに見えるけど、実はけっこう優しいよね」
「わたくしが優しい?」
シャーロットは本当に不思議そうな顔でオレを見ていた。
あれ? そうなんじゃないの?
でも、シャルの隣に座っているメイドはうんうん頷ているよ?
「エドはわたくしがなんて呼ばれているのか知らないようね?」
「何かあるの?」
「……氷姫よ」
「かっこいいじゃん?」
「はぁ……。いい、エド? あなたのその真っすぐなところは嫌いではないけど、もう少し言葉の裏を読むことを覚えてちょうだい? この場合は、よく言えば冷静、悪く言えば冷徹だって言いたいのよ」
「でも、シャルの魂の魔法も関係してるんじゃないの?」
「たしかに魂の魔法が発現してから広く言われ始めたけれど、口さがない者たちはその前から言っていたわ」
「うぅーん……」
氷姫とかやっぱりオレの感覚ではかっこいいと思うんだけど、シャーロットはあまりに気に入ってない様子、むしろ悪口だと思っているようだ。
「その人たちは人を見る目はなかったけど、言葉選びのセンスはあったようだね。オレはやっぱりかっこいいと思うよ。氷姫。いいじゃない?」
「そういうものかしら?」
まぁ、男の子がかわいいと言われて微妙な気持ちになるのと同じように、女の子もかっこいいと言われても微妙な気持ちになるのかもしれないね。
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