026 守護神ゾーイ
ついに馬車列が出発し、オレとシャーロット、フランシスの乗る馬車も動き出す。
馬車が向かう先は王都だ。
王都は『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の前半の舞台となった学園があるし、王都の各所にも登場したお店などもある。
オレとしては聖地巡礼したいところだけど、今回のメイン目的はシャーロットとの婚約式だ。
オレがシャーロットに合格を貰って、正式な婚約者になったからね。そのことを護国神ゾーイの前で誓うわけだ。
護国神ゾーイは、その名の通りこのカチドニア王国を守ってくれている神である。とはいっても、ゾーイはいたずらっ子でトリッキーな一面があり、戦いには不得手。だが、頭のいい神とされており、主に国の発展に力を尽くしてくれる神とされている。
戦いの神や豊穣の神、魔法の神などを信仰する国は多くあるが、ゾーイを信仰する国はこのカチドニア王国だけである。それだけマイナーというか、神話でも問題を起こしまくりだしね、一般的にはいたずらの神とされている。でも、たまに機転を利かせて他の神の誰もなしえなかったことをやってしまったりする。
うーん。近い属性の神で言うと、北欧神話のロキとかだろうか。まぁ、ゾーイはラグナロクなんて起こさないけどね。
どうしてカチドニア王国の初代国王は、護国神をゾーイにしたんだろうね?
普通は国の発展を願うにしても、豊穣の神にすると思うんだけど……。
日本人の感覚としては、信仰する神なんてなんでもいいじゃんと思うかもしれない。
でも、この世界ではそうもいかないんだなぁ。
守護神が同じというだけで国同士の仲が良くなったり、神話で神同士の仲が悪いからと理由だけで戦争が起こったりするのがこの世界だ。
そういう意味では、ゾーイを信仰するカチドニア王国は周辺国から浮いている。
一応、周辺国と交易などもしているけど、そこまで仲のいい国はない。
それもあって、オレはカチドニア王国がゾーイを信仰している理由がわからない。
不思議だね? メリットが見つからないよ?
むしろデメリットの方が大きすぎて目を覆いたくなるほどなんだけど……。
そもそも――――。
「どうしたのエド? なんだか珍しく難しい顔をしているように見えるわ」
そう問いかけてきたのは、向かいの席に座って優雅にお茶を飲んでいるシャーロットだ。馬車の窓からの四角く切り取られた光が当たり、透き通るような白い肌が輝いているように見えた。まるで、最高の絵画を見ているような気分だ。
「珍しくってひどくないかな?」
「そうかしら? あなたってわりと考えなしよ? 少しは自覚した方がいいんじゃない?」
「それは、そうかもしれないけど……」
オレなりに考えているんだけど、シャーロットにはなにも考えてないように見えるようだ。ちょっと遺憾である。
まぁ、オレも自分が頭がいいとは思っていないからいいんだけどさ。
どちらかというと、前世での専門は肉体労働だった。
「それで、何を考えていたの?」
目の前にいるシャーロットは王族だ。
もしかしたら、カチドニア王国の守護神がゾーイになった理由も知ってるかもしれない。
「大したことじゃないんだけど、なんでカチドニア王国の守護神ってゾーイなんだろうって思ったんだ。シャーロットは理由を知ってる?」
「お父様に聞いてはいるけど、本当かどうかはわからないわよ?」
シャーロットのお父様って、カチドニア王国の国王だろ?
国王が言うなら間違いないんじゃないだろうか。
「知ってるなら教えてほしいな」
「わたくしの知ってる範囲でよければ。ゾーイって一般的にはいたずらの神とされているわよね? そのゾーイだけど、いたずらをして、結果的に他の神々に怒られたり、無理難題を言われたりするけど、機転を利かせてそのピンチをいつも抜け出しているわ。そんなふうに、このカチドニア王国もどんな国難も乗り越えて、悠久に栄えるようにという意味があるみたい」
「へー……」
思った以上に考えられて守護神をゾーイにしたんだなぁ。
それにしても、国難か……。
思い出してしまうのは『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の内容だ。
たしかに、主人公のシェリルは、仲間の知恵も借りて、機転を利かせて戦争を勝利に導いた。
まぁ、時には脳筋かと思うほど正面突破を選択するんだけどさ。
主人公というか、プレイヤーの選択によってステージの難易度や手に入れられるアイテムが変わるというのは当時画期的だったなぁ。
そして、ここはそんな『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の続編の世界だ。絶対に将来的に戦争が起こることが、大きな国難が押し寄せることが確定している。
しかも、その内容がわからないというのが怖い。だってまだ未発売でプレイできなかったんだもん……。
「そういえば……」
オレはその時、とんでもないことに気が付いた。
この『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の続編の世界。その主人公って誰だ?
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