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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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025 オレも王都へ

「お世話になりましたわ」


 それから五日後。


 シャーロットがオールディス侯爵家のお屋敷を出発する日が来た。


「大した歓待もできず、申し訳ありません」

「いいえ。十分に歓待していただきましたわ」


 父上とシャーロットが会話している。


 まぁ、このあたりはただの社交辞令のような定型文の応酬だ。


 実はこの後、シャーロットに続いていく形でオレたち家族は王都に向かうつもりだ。王都で正式にシャーロットと婚約をするつもりである。


 オレはあまり詳しくないが、婚約式というやつがあるらしい。そのためにシャーロットには内緒で婚約指輪を用意した。婚約式で使うらしい。


「では、そろそろ出発いたしますわ」

「我々も後を追います。よろしくお願いいたします」

「あっ! エド!」


 オレも両親と一緒に後ろの馬車に行こうとすると、シャーロットに呼び止められた。


「いかがいたしましたか?」

「あなたはわたくしの婚約者でしょう? 一緒の馬車に乗るのが道理ではなくて?」


 つまり、一緒の馬車に乗ってほしいってことかな?


「かしこまりました」

「それでいいのよ」


 最近気が付いたけど、シャーロットはわりとかまってちゃんのような気がする。


 べつにウザいくらい絡んでくるわけじゃないけど、遠いところからかまってほしいなと言わんばかりに見つめてくる感じだ。愛おしいね。


 オレは先に王族専用の馬車に乗って、シャーロットに手を伸ばしてエスコートする。


 引っ張るようにしてシャーロットを馬車の上に引き上げると、シャーロットの専属メイドも馬車に乗り込んできた。常にシャーロットの傍にいたメイドだ。たぶん、このメイドはシャーロットにとって特別なメイドなのだろう。


「失礼いたします」


 メイドはシャーロットの隣に座る。まるでそこは譲らないと言わんばかりの圧だ。


 いや、シャーロットとはかなり仲良くなった自覚はあるけどけど、さすがにまだシャーロットの隣に座らないよ?


 オレはシャーロットの向かいに座ると、メイドがささっとテーブルを用意して、お茶を用意する。


 このメイド、やるな。


 王族に直接仕えているということは、このメイドもどこかの貴族の出なのだろう。高貴な人には高貴な使用人をという考えがあるからね。


 そういえば、カーラもどこかの貴族家の出身だったはずだったけど……。さすがにエドワードくんの記憶を探っても記憶していないようだ。


 オレは用意されたお茶を一口に飲んで口を湿らすと、シャーロットに質問することにした。


「シャル、王都ってどんなところなの? やっぱり大きいのかな?」

「大きいですわね。王都にはいろんな素晴らしい場所があるのよ? 時間があったら、あなたを案内してあげるわ」

「ありがとう」


 王都といえば、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の舞台にもなった場所だ。聖地巡礼じゃないけど、いろいろと巡ってみたいな。


「それでは出発いたします!」


 御者のおじさんの声が馬車の中にも届き、ようやく馬車列が出発する。


 仮にもお姫様の御一行だからね。荷物なども合わせると、かなりの馬車が必要になる。


 今回はそれにプラスして、オレと両親とその荷物が加わるので、かなり長い馬車列になっていることだろう。大変だね。


 まぁ、オレはそんなことは気にせず、涼しい顔をしてお茶を飲んでいるんだけど。


「姫様、こちら、お茶菓子にございます」

「ありがとう、フランシス」


 馬車の空間の中央に用意された折りたたみ式のテーブル。その上にクリームたっぷりのケーキが置かれる。


 しかし、用意されたケーキは一つだけだ。オレの分はない。


「まあ! 素敵ね。さすがオールディス侯爵家、菓子職人のレベルが高いわね。でも――――」


 シャーロットが申し訳なさそうにこちらをちらりと見た。


「エド、あなたは本当に食べないの?」

「……ああ」


 オレは血涙を流さんばかりの勢いで、しかし、表面上は涼しい顔をして頷けたと思う。


 オレは自分のためにも、そして、シャーロットのためにもダイエットを誓った身だ。こんな高カロリーのケーキなど食べることなど許されない。これは、誰に強要されたことでもない。自分自身で決めた誓いだ。


「そんな悲しそうな顔をしなくてもいいのに……。少しだけ食べる?」


 そう言って、シャーロットがフォークの先にケーキの欠片を刺して、オレの口元に運ぶ。


「だだだ大丈夫だ、問題ない……!」


 オレはケーキから目を逸らすようにして、顔を横を向けた。


 オレは絶対にケーキを食べないぞという意思表示である。


「わたくしはたしかにあなたに痩せろと命じたけど、そんなに自分を追い込まなくてもいいのよ? わたくしは、あなたが毎朝ランニングしてるのも知っているし、あなたが痩せるために努力しているのを知っているの。たまにはいいんじゃない?」

「いや、オレは食べない! 絶対にだ!」

「もー、強情なんだから。こんなにおいしいのに」


 シャーロットはフォークに刺さったケーキを食べると、珍しく頬を緩ませるのだった。

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