024 ブランコメイドバイエド
「すごい。他の部分は硬いのに、椅子の部分だけ柔らかいわね。あなたの頭の中はどうなってるのよ?」
「普通だよ」
シャーロットに手を貸して船型のブランコに乗せる。シャーロットは船尾側のシートに座ると、不思議そうに柔らかい影を触っていた。
「じゃあ、いくよ」
オレは立ったまま重心を前後に動かして、船型のブランコを漕ごうとする。
「? なにやってるの、エド? 早く座らないと、使用人たちも困ってしまうわよ?」
オレだって、エドワードくんの記憶で、貴族のブランコは使用人たちに押してもらうのが普通だということを知っている。
でも、漕げるなら自分で漕ぎたいじゃん?
それに、ここにいるのはメイドだけだ。女性に力仕事をさせるのは気が引けるというのもある。
少しずつ、船型のブランコが動き始める。
「う、動いたわよ⁉」
「そりゃ、漕いでるからね!」
一度動き出すと、どんどん動く幅が大きくなっていく。
「ん?」
これって、オレが自分で漕ぐんじゃなくて、魔法で動かせばいいのでは?
「よいしょっと」
「疲れたの? 素直に押してもらわないから」
オレも船首側のシートに座ると、シャーロットは呆れたように言う。
「いや、魔法で動かせばいいと気が付いたんだ」
「え?」
「いくよ?」
「きゃっ⁉」
オレが魔法で大きく船側のブランコを動かすと、シャーロットは驚いたのか、かわいらしい悲鳴をあげていた。かわいい。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと⁉ 加減ってものがあるでしょう!」
ちょっと魔力を込めすぎたのか、まるで絶叫マシンのような角度まで上がってしまう船型のブランコ。なんか、こういう絶叫マシンあったよね?
そんな現実逃避はやめて、オレは即座に自分とシャーロットの体を固定するバーを継ぎ足すように作り出す。
「シャル、このバーを握るんだ!」
「握ってるわよ! もー! 絶対やりすぎよ!」
「ごめんってば」
「特別に許してあげるわ。こんなブランコ初めて!」
オレの目が確かならば、シャーロットは文句を言いながらも楽しんでいるように見えた。
まぁ、絶叫マシンってなんだかんだ人気があるもんね。もしかしたらシャーロットも気に入ったのかもしれない。
「このまま一回転もできるけど?」
「それはやめなさい!」
さすがにダメだったか。面白いと思うんだけどなぁ。
◇
その後、ブランコを楽しんだり、休憩にお茶を飲んだりしながら、オレはシャーロットとの時間を過ごした。
ブランコなんて子どもの遊びで大丈夫かなという思いもあったけど、意外にも楽しんでくれたようで何よりだ。
考えてみれば、シャーロットも大人びて見えるけどまだ十歳の子どもだしね。ブランコが刺さるのもわかる気がした。
そんな楽しかった遊びの時間も夕暮れには終了になる。
これから夕食なのだ。
電気がないからか、この国での生活は早寝早起きだ。まさに太陽と一緒に生活している感じだね。
まぁ、ウチは侯爵家だから、蠟燭もたくさんある。夜更かしもできなくはないけど、意味もない浪費はしたくない。
そんなこんなで、まだ夕暮れの時間だけど、夕食の時間だ。
いつもは父上が座っているお誕生日席の上座にシャーロットが座り、夕食の前のご挨拶も終わり、夕食が始まる。
「シャーロット殿下、今回は息子のエドワードを婚約者に選んでいただけたと聞きました。ありがとうございます、オールディス侯爵家でもこれ以上光栄なことはございません」
「ご自身の愛称も許されたと聞いております。わたくしたちにとっても自慢の息子ですが、シャーロット殿下にもエドワードを気に入っていただけたようでよかったです」
父上と母上からのお礼を受け、シャーロットが少しだけ恥ずかしそうにしていた。
父上も母上もニコニコである。王家との太いパイプができたというのもあるし、オレに婚約者ができたことが純粋に嬉しいのだろう。
しかも、その仲が良好というのも嬉しいのだろう。
まぁ、今日初めて会ったのに、愛称まで許すなんてなかなかないからね。それだけシャーロットがオレのことを気に入ったと考えるのが普通だ。
実際は、オレが感情を爆発させてしまったことが原因なんだけどね。
でも、父上と母上に改めて言われることで、オレは本当にシャーロットと婚約したんだということを実感した。
なんだかちょっと気恥ずかしい。
シャーロットも気恥ずかしいのだろう。平気なフリをしているけど、その肌は夕焼けの中でもわかるほどピンクに染まっていた。
極力政治の話はしないのか、父上も母上も世間話に終始していた。
「こうなるとあれですな。早く孫の顔が見たいというもの」
お酒を飲んでいるからか、ちょっと顔を赤くした父上が自慢のU字型のヒゲの先を整えながらそんなことを急に言い出した。
オレ? そりゃまま咽たよ。危うくメインディッシュの豚肉が飛んでいくところだった。
「あなた、それはまだ気が早いのではなくて?」
「だが、クラリッサも想像してみるといい。シャーロット殿下とエドワードの子どもだぞ? 絶対にかわいいに決まってる!」
母上がやんわり言うけど、父上の暴走は止まらない。
「早くこの手で抱きたいものです。ああ! 我が生涯において、最高の瞬間でしょう!」
もうやめてあげて! シャーロットが真っ赤になってるから!
一部父上の暴走もあったが、食事は無事? に済んだのだった。
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