022 エドワードくんと魂の魔法
「お待たせしたわね」
廊下でカーラと話しながら時間を潰していると、意外と早い時間で再びシャーロットの部屋への入室許可が出た。
さっそく部屋に入ると、そこにはさっきと同じ服を着たシャーロットの姿があった。
あれ? 着替えたんじゃないの?
「スカートの下にズボンを穿いたのよ」
オレの疑問顔に気が付いたのだろう。シャーロットが少しだけスカートの裾を持ち上げてみせる。
そこには、スカートの生地と同系統のズボンがあった。
それはわかったけど、なんでわざわざズボンを穿いたのだろう?
「ブランコに乗るのでしょう? なら女の子はズボンを穿かなくてはいけないのよ」
またオレの顔色を読んだのだろう。シャーロットが呆れたような顔でそう言った。
女の子ってブランコ乗るのにもズボン穿かないとダメなんだ。
なんていうか、すごく面倒くさそう。
たぶん、異性に足を見せないためだろう。基本ロングスカートだしね。
「こっちも準備できたし、それじゃあ行こうか」
「ええ。……ちょっと、エド?」
「え?」
そのまま案内するように先に歩こうとしたら、シャーロットに呼び止められてしまった。
どうしたんだろう?
「そんな不思議そうな顔しないでくださる? あなたはわたくしの婚約者なのでしょう? だったら、ちゃんと婚約者をエスコートするべきじゃないかしら?」
「ああ」
そういえば、エドワードくんの記憶でも、そんなことを習った記憶がある。
じゃあ、やるべきか。オレとシャーロットは婚約者なんだし。
オレはシャーロットの左隣に移動すると、右腕を少し空ける。
すると、そっとシャーロットの細い腕がオレの右腕に置かれた。
なぜか「行きましょうか、オレのお姫様」なんて臭いセリフが浮かんでしまった。自分で恥ずかしくなってしまう。
ていうか、シャーロットは本当にお姫様だったわ。
「行こうか」
「ええ」
結局、無難なセリフに落ち着き、オレはシャーロットを案内しながらお屋敷を後にする。
「それにしても、本当に広いお庭ね」
「本当にね。一周ランニングするだけでもかなり疲れるよ。もう慣れたけど」
「あなた、ランニングしてるの?」
「まぁね。オレも自分の体形には思うところがあったから」
そういえば、最初は使用人たちの心証を改めるために痩せようと思ったんだっけ。
もちろん、そのためにも痩せなくちゃいけないけど、今はシャーロットの隣に立つに相応しい男になるためにも痩せたい。
でも、シャーロットのいる間は供応役として傍にいた方がいいだろう。
明日からは、早起きしてランニングしようかな。早朝ランニングとか気持ちよさそうだし。
「そう思うなら、最初から太らなければよかったじゃない。どうしてそんなに太ってしまったのよ?」
「いやぁ、元々ぽっちゃりはしていたんだよ。お菓子大好きだし。でも、節度は持っていたとは思う。それが壊れちゃったのは、オレの魂の魔法が、もうどうしようもないほど使えないと思ってしまったからなんだ……」
エドワードくんだって、なにも最初からいたずらばかりする悪い人間だったわけじゃない。むしろ、優等生な感じだった。
それが崩れてしまったのが、自分の魂の魔法が影の魔法だったから。
影の魔法を、影を生み出し、それが現実に何の影響も与えない魔法だと勘違いしてしまったんだね。
今まで優等生だったエドワードくんは、完璧主義者だったのだろう。
だから、余計に自分の魂の魔法を許すことができなかった。
魂の魔法は、この世界ではかなり重要だ。おそらく、エドワードくんの絶望はオレの想像を超えるものだったに違いない。
自分がどうあがいても完璧になれないと悟ってしまったエドワードくんは、壊れた。
完璧になれない自分が許せなかったんだね。
両親の愛も、この場合は悪い方向に働いてしまう。
完璧ではない自分は両親に愛される資格はないと考えてしまったんだ。
エドワードくんの気持ちはわからなくもないけど、父上と母上に愛されるのに資格なんて必要ないのにね。あの二人は、それこそ無償の愛をエドワードくんに注いでいた。
それが逆にエドワードくんを苦しませてしまうことになるのだが……。
なんというか、やるせない話だ。
「あなたの魔法が使えない……? あなたは何を言っているの……?」
よほど衝撃的だったのか、シャーロットは足を止めてオレを困惑したような顔で見上げていた。
「あぁ、もう過去の話だよ。オレの魂の魔法は、影の魔法なんだけど、影の実体化ができなかった頃の話。もうその問題は克服したよ」
ただ、エドワードくんは克服できなかったというだけの話だ。
エドワードくんも実体化に挑戦しなかったわけじゃない。ただ、影が実体を持つというのがどうしてもエドワードくんには想像できなかった。
魂の魔法は、想像力が大事だ。自分が無理だと思ってしまったものはできない。
もし、実体化ができれば、エドワードくんの人生は大きく変わっただろう。
それを思うと、エドワードくんが不憫でならない。
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