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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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020 返事と愛称

 もうオレの頭は茹って爆発してしまいそうだった。自分が何を言っているのか、何を言いたかったかもよくわからなくなってしまい、言葉に詰まってしまう。


「あの、あーっと……。その、何と言いますか……」


 言葉にだんだん勢いを失くしていく。


 そして、シャーロットを見ていた視線もだんだんと自信失くして下がっていく。もう見ているのは自分の突き出たお腹だ。


 情けない。こんなはずじゃなかったのに……。


 自分が情けなさ過ぎて、だんだんと視界が歪み、涙が溢れそうになる。


 その時だった。


「エドワード、顔をお上げなさい」

「…………」


 シャーロットの命令が聞こえる。きっとオレの無様な姿を見て笑っているだろう。


 これ以上、無様な姿を見せたくなくて、オレは初めてシャーロットの命令に背いた。


「もう一度言います。エドワード、顔をお上げなさい」

「はい……」


 さすがに王族の言葉を二度も無視するわけにはいかない。


 オレはそのまま顔を上げる。


 そこにいたのは――――ッ!


「エドワードの気持ちはわかりました。わたくしも、エドワードを好きになれるように努力しようと思います。これで満足でしょう?」


 やけに早口でそう言ったのは、肩から顔まで赤くしたシャーロットだった。


 シャーロットといえば、透き通るような磁器を思わせる肌だった。それが今や真っ赤に染まっていた。


 たぶん、元の肌が白いから、赤くなると普通の人より顕著に出てしまうのだろう。


 そんなことを考えていたら、やっとシャーロットの言った言葉の意味が頭の中にゆっくりと沁み込んでいった。


「あ、え?」


 出てきたのはそんな間抜けな言葉だった。


 その言葉と共に、目尻から涙が零れてしまう。


「もー! 殿方がこんなことで泣かないでくださいまし! 約束! 約束いたしますから!」

「ほんと⁉」


 オレは礼儀も忘れてローテーブルに身を乗り出すようにしてシャーロットを問い詰める。


 シャーロットは顔を隠すように扇子を広げて俯いた。


「本当です。本当ですから!」

「やった……」


 ようやく実感が出てきた。


 オレは立ち上がると、両の拳を突き上げて叫ぶ!


「やったあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 オレは、まるでドラゴンの首を獲ったように雄叫びをあげる。


 まだ、シャーロットと幸せな家庭を築けると決まったわけじゃない。シャーロットは、オレを好きになると決まったわけじゃない。ただ、好きになる努力をすると言っただけだ。


 その結果、やっぱりオレのことを好きになってもらうのは無理だったという結果もあるだろう。


 でも、オレの思い描く幸せな家庭。父上と母上のような素敵な関係。それをシャーロットと掴むための最初の第一歩を確かに歩めた気がしたんだ。


 まだゴールじゃない。でも、そのための第一歩は歩めた。


 なら、後はオレが努力するだけだ!


「やったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 気が付けば、オレは泣いていた。


 どうしてこんなにも後から後から涙が出てくるのかはわからない。


 それでも、まるで止まる気配がない。


「あー! もー!」


 すると、シャーロットが苛立ったような声をあげて立ち上がり、オレに近づいてくる。


 さすがに、うざかっただろうか?


「うるさくしてごめん。でも、嬉しかったんだ」

「わかりましたから、少し、そのままで……」


 何を思ったのか、シャーロットがオレの顔に手を伸ばすと、ハンカチでオレの涙を拭っていく。


「殿方が軽々しく泣いてはいけませんわ。あなたはわたくしの婚約者なのですから、なおさらです」

「うん!」


 オレとシャーロットは、意外とそんなに背の差がなかった。そのおかげで、肌をピンクに染めたシャーロットの顔をまじまじと見ることができた。


「奇麗だ……」


 気が付けば、オレは思わずそう呟いていた。


 もう溜息が出るほどの造形美。シャーロットってたしかまだ十歳だよね? もう年齢に似合わない色気すら感じるんだけど感じるんだけど、どうなってるの?


「そう」


 シャーロットはそう素っ気なく返す。


 でも、さっきより顔が赤いのは気のせいだろうか?


「ありがとうございます、シャーロット殿下」


 ようやく涙も止まり、オレはシャーロットにお礼を言う。


 なんだか気恥ずかしい。実質年下の女の子の言葉に勝手に感動して、自分でも制御できないくらい泣いてしまうとは……。


 もしかして、体の年齢に引っ張られて、精神的にも幼くなってるとか?


 そんなことがありえるのだろうか?


「シャルでいいわ」

「はい?」


 シャル? シャルって何? 対価にシャルを要求されているとか? でも、オレにはシャルが何かわからない。


「シャル、とは?」

「鈍いのね。名前よ。あなたにはわたくしを愛称で呼ぶことを許してあげる」

「え⁉」


 王族の名前って特別だ。例えば、許しもなく下級貴族なんかがシャーロットのことをシャルと呼んだら、首を刎ねられても文句は言えない。上級貴族でも厳しい罰があるだろう。


 それくらい貴族の、そして王族の名前というものは特別なのだ。

お読みいただき、ありがとうございます!


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