015 コラテラルダメージ
その後、オレはシャーロットを彼女の部屋まで案内した。
シャーロットは、魔力の使い過ぎで疲労困憊らしい。
ゲームでは、MPが0の状態でも普通に動けていたんだけど……。やはり、ゲームと現実は違うということだろう。オレも気を付けた方がよさそうだな。ゲーム感覚のままだと、いつか痛い目を見そうだ。
父上よりシャーロットの供応役を仰せつかったオレだが、そのシャーロットは今ベッドで休んでいる。オレは必要ない。
「シャーロット殿下が目を覚ましたら知らせてください。私は自室に戻っています」
そうシャーロットが王都から連れて来たメイドに命じると、オレは自室へと向かって歩き出す。
「お疲れ様です、エドワード様」
すると、どこからともなくカーラが姿を現した。
シャーロットから使用人を下げるように言われたから部屋から出てもらったのだけど、今までどこにいたんだろう?
「ありがとう、カーラはどこにいたの?」
「気取られないように、こっそりと後ろにおりました」
「はい?」
そんな忍者のみたいな……。
いや、カーラはこう見えてもオールディス侯爵の嫡子であるオレの筆頭メイド。もしかしたら、忍者的な技能も持っているのかもしれない。伊達にオレの筆頭メイドというわけではないということだろう。
「お伺いしたいのですが、ご首尾はいかがでしたか?」
シャーロットとの婚約の件かな?
「それなら、シャーロット殿下と婚約することになった」
「まあ! それはおめでとうございます! 急いで旦那様にお知らせしなければ」
カーラがパチンッと指を鳴らすと、彼女の背後からメイドが現れる。
なにそれかっこいい!
オレもやったらメイドが現れるのだろうか?
「エドワード様、シャーロット殿下と婚約。すぐに旦那様に報告を」
「はっ」
メイドはまるで競歩のような、辛うじて走っていないと言い訳できるようなスピードで父上の執務室の方へ歩いていく。
「それで、エドワード様はこれからどちらへ?」
「自室だ。シャーロット殿下が目を覚ましたら知らせが来ることになっている」
「そうでしたか。それにしても婚約ですか。ようございましたね」
「ああ」
「国の創生からありますオールディス侯爵家ですが、王族との婚約は珍しいことですよ! やりましたね、エドワード様!」
「ありがとう、カーラ」
そうこうカーラと話していると、自室にたどり着いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
カーラの開けてくれたドアをくぐると、オレは姿見の前に立つ。
姿見に映るのは、黒髪黒目のデブった少年だ。これはたしかにシャーロットに痩せろと言われても仕方がない。
しかし、あれから毎日運動をがんばっているのに、いっこうに痩せる気配がないな。
「まぁ、まだ四日目だ。普通はもっと時間がかかるものなのだろう」
そう結論付けて、オレは一つ頷く。
「エドワード様、お茶はいかがですか?」
「貰おうかな」
オレはカーラの声に振り向くと、大きなソファーの中央に座った。
すると、すぐにオレの前のローテーブルの上にソーサーとカップが置かれる。
そしてカップに入れられるのは、まるで黄金のような色をしたお茶だ。いつも何気なく飲んでいるお茶だけど、たぶん高級品なんだろうなぁ。
カップを手に取ると、ふわっと香る瑞々しい花のような匂い。
一口飲むと、熱い香りが鼻から抜けていく。それが気持ちいい。
知らぬ間に閉じていた目を開けると、目の前のローテーブルにはたくさんのお茶菓子が乗っていた。
「くっ⁉」
た、食べたい!
エドワードくんの記憶が、これらはとてもおいしいことを教えてくれる。
だが――――ッ!
「カ、カーラ、お菓子を片付けてくれ」
「お気に召しませんでしたか? すぐに別のお菓子を――――」
「違う! そうじゃないんだ……」
「はい?」
カーラが不思議そうな顔をしている。
そうだね。オレだってこの四日間ダイエットをがんばっていたよ?
でも、お菓子の誘惑には勝てなくて、少しだけ食べてしまっていたんだ。
だが、それも今日まで。これからは――――!
「オレは、お菓子を食べない!」
「ッ⁉」
オレの宣言に、カーラが、お菓子の乗ったカートを押していたメイドが、それぞれ驚愕の表情を浮かべていた。
そう。それほどまでにエドワードくんはお菓子大好きであり、食べまくっていた。
そのオレがお菓子をやめる。かなりの衝撃だろう。オレも自分が正気なのか疑いたくなるレベルだ。
だって、このお菓子たちは、オールディス侯爵家に勤められるくらいのトップレベルの料理人たちが家の威信をかけて作った珠玉のお菓子たちだ。
オレだって食べたい!
でも――――ッ!
「シャーロット殿下に痩せることを約束したんだ。もう、オレはお菓子を食べない……!」
「それは……」
カーラが絶句しているのが伝わる。
そうだね。オレがどんなにバカないたずらをしても変わらずオレの一番近くで接してくれたのがカーラだ。オレがどれだけお菓子が好きなのか、一番の理解者だろう。
「だから、料理人たちには申し訳ないが、このお菓子は下げてくれ……。そうだ。ただ廃棄するのはもったいない。使用人たちに振る舞ってくれ」
「使用人たちに、でございますか?」
「ああ。今まですまなかったと伝えてくれ」
「……かしこまりました。必ずや!」
カーラはオレの決意を受け取ると、すぐに動き出す。
カーラは優秀なメイドだ。きっとやり遂げてくれるだろう……。
さらばだ、お菓子たちよ。今までありがとう。
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