014 シャーロット・カチドニアの試練②
「いきますね」
オレは氷の盾を破壊しつつ、かつシャーロットを傷付けない方法を一つ見つけ、とりあえず試してみることにした。
上手くいくといいんだけど……。
「どうぞ。あなたにできるものなら」
シャーロットはなぜか余裕そうな様子だ。
オレが魔法選択をミスったら普通に死んじゃうわけなんだけど……。そんな危機意識で大丈夫なんだろうか?
自分が王族だからと高をくくっている?
あ! あれか。
いざとなったらメイドさんが助けてくれるのか。
そのためにメイドさんを侍らせているのか。なるほど。納得だ。
それなら、オレも安心して魔法を使えるよ。
「ブレッド、ファイア!」
オレが選択したのは、一番基本の魔法、ブレッド系だ。
もちろん、オレだって『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』のガチ廃人だ。ブレッド系の他にも基本の魔法は知っている。
でも、ここは敢えてのブレッド系魔法だ。
といっても、オレのブレッド系は特別だ。まるでマシンガンのようにライフル弾の形をした弾が等間隔に氷の盾を縦に穿つ。
「ッ⁉」
まるで透き通るような氷の向こう。シャーロットが驚くような顔をしていた。
しかし、自ら生み出した氷の盾が健在であることを知ると、安堵したのか腕を組んで強気な姿勢を見せる。
「速さには少々驚きましたけど、こんなものですの? 残念ですが、わたくしの盾はやはり抜けなかったようですわね。これであなたも失格で――――」
「まだですよ」
オレはシャーロットを真似て、右腕を胸の高さに上げて、横に振り抜く。
その瞬間――――!
キンッと涼やかな音を立てて、氷の盾が縦に真っ二つに割れた。
「え……?」
現実を受け入れられないのか、シャーロットの困惑した声が聞こえる。
オレのやったことは実は単純なことである。
オレはSNSの動画で楔を打ち込んで大きな石を割る動画を見たことがあった。今回やったことは、それの無理やりやった感じである。
オレはブレッドの魔法で氷の盾に撃ち込んだライフル弾を操作して、楔のように形にし、どんどん亀裂を広げただけだ。
大きな岩が割れるなら、大きな氷も割れるだろうと思ってやったけど、上手くいってよかったよ。
「これでよろしいでしょうか?」
「いったいどうやって……」
呆然としたようにシャーロットは疑問を口にする。
「岩を楔で割るのと原理は同じですよ。それにしても、なかなか難しい試験を考えましたね。シャーロット殿下を傷付けず、氷を割る方法を考えるのに苦労しました」
「え……? まさか、そんなことまで考えて……?」
「え? そういう試験ではないのですか?」
「え?」
「え?」
こいつは何を言ってるんだと言わんばかりに不思議そうな顔のシャーロット。
どういうことあろう?
もしものためにメイドさんを近くに侍らしていたんじゃないのか?
「待ちなさい! まさか……! エドワード、あなたはわたくしの魔法を打ち破るのは簡単だとでも言いたいの⁉」
「え? はい」
「嘘!」
「嘘じゃないですよ? もう一度氷を出してください」
オレはもう一度シャーロットに氷の盾を作ってもらうと、シャーロットと一緒に砕けた氷が飛んでこないだろう位置まで避難する。
なんかさっきの氷の盾より大きいような気がするんだけど、気のせいかな?
「さあ、やれるものならやってみなさい!」
「かしこまりました」
さて、とは言ったものの、どうやって壊そうか。手札がありすぎて困ってしまうね?
まぁ、ここはシンプルにいこう。
オレは右手の人差し指で氷の盾を差す。
使うのは、まだバージル先生からは習っていないけど、基本の第四の魔法だ。
イメージするのは戦車の砲撃。
しかも、滑腔砲ではなくライフリングを意識して回転を加える。
「ランス、ファイア!」
その瞬間、生まれたのは純然たる破壊だった。
オレの生み出したランスの魔法は、シャーロットが生み出した氷の盾を粉々に砕いただけではなく、魔法練習場の壁さえも破壊して、庭に生えている木々を薙ぎ倒していく。
やっべ。威力が強すぎた。さすがにこれは後で父上に怒られるんじゃないか?
そんなビクビクしそうになる感情を表に出すことなく、オレは決め台詞のつもりでこう言った。
「ね? 簡単でしょう?」
「そ、そんな……」
そしたら、シャーロットは己の敗北を信じられないように首を横に小さく振り、その後、膝から崩れ落ちた。
そんなに悔しかったのだろうか?
相手はまだ子供だし、ここは勝ちを譲ってあげた方がよかったか?
でも、これも婚約者になるための試験みたいだし、手を抜いたら失礼だよな?
「姫様⁉ 大丈夫でございますか?」
「ええ、大丈夫……。ちょっと魔力を使いすぎただけよ……」
メイドの手を借りて再び立ち上がるシャーロット。しかし、その顔色は白いを通り越して、もはや青い。
「あまりご無理はなさらずに」
「あなたがそれを言うのね……」
シャーロットは呆れたように言うと、メイドの手から離れて一人で立った。
「いいわ、エドワード。あなたをわたくしの婚約者として認めてあげる」
「おぉ!」
「ただし!」
そう言ってシャーロットはオレの腹を指差した。
「多少のお肉は富の象徴だけど、あなたは太りすぎよ! わたくしの隣に立つなら、もう少しお痩せなさい!」
これにはオレもグーの音も出ないよ。
「かしこまりました」
こうして、オレはシャーロットの婚約者の地位を手に入れたのだった。
手に入れたんだけど……これでよかったのか?
もっとこう、普通は為人とか見るんじゃないのか?
まぁ、婚約者になったんだから、シャーロットのことを好きになれるようにがんばるか。
「シャーロット殿下」
「何かしら?」
「シャーロット殿下に相応しい男になれるように頑張ります」
「……そう」
シャーロット殿下は意外なものを見るような顔でオレのことを見ていた。
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