012 シャーロットはかわいい
「シャーロット殿下、私から贈り物があるのですが、受け取ってください」
オレがそう言うと、カーラが先ほど自室で確認したビロードの箱をメイドさんに渡した。そして、メイドさんがシャーロットの前にビロードの箱を置く。
その様子を見て隣に座る母上がちょっとホッとしたような顔をしていた。
もしかしたら、オレにプレゼントを渡すタイミングを作るために装飾品の話をしていたのかな?
だとしたら、ずいぶんヤキモキさせてしまっただろう。申し訳ない。
「開けてみてもよろしいですか?」
「ぜひ!」
尋ねてくるシャーロットに喰い気味に答えてしまった。
自信のあるプレゼントだからね。まぁ、オレが選んだわけじゃないんだけど。
「これは……」
ビロードの箱を開いて、絶句するように目を見開いた。
「本当に頂いてしまってもよろしいのですか?」
「はい。お納めください」
「ありがとうございます。こんな素敵なものを頂いてしまって……」
よかった。喜んでくれたみたいだ。好感触を引き出せて、オレとしては一安心だ。
そんなこんなで三人で話していたのだけど、突然母上が立ち上がる。
「わたくしとしたことが、楽しすぎてうっかりしゃべりすぎてしまいましたわ。あとはお若い二人で……」
そう言ってそそくさと立ち去ってしまう母上。
今まで会話の中心であり、話を回していた母上がいなくなってしまった。一人残されると、途端に心細くなる。
でも、オレはシャーロットの供応役を父上より仰せつかっている。いわば、ホスト側だ。
それに、オレはシャーロットの婚約者候補であり、正式な婚約者ではない。
父上と母上の様子からして、オレをシャーロットの婚約者にしたいという思いが伝わってきた。ならば、できる限りその意思に沿いたいところだ。
シャーロットは、公式ページでも紹介されていた重要キャラクター。お近づきになった方がオレの生き残る公算が上がるのではないかという打算もある。
オレだって死にたくないからね。
それに、貴族の結婚とか、政略結婚が主だろう。恋愛結婚なんてまずない。そういう意味では、王族であるシャーロットは大当たりだ。まだ幼いけど、超美人さんだしね。
あとはオレがシャーロットを愛せるかどうかだが……。それはシャーロットも同じことだろう。
ネットニュースか何かで見たのだが、恋愛結婚よりもお見合い結婚の方が離婚する確率が低いらしいというのを思い出した。
その理由が、お互いに好きになろうと努力するからというものだ。
オレは、もうシャーロットを好きになる覚悟がある。
今はシャーロット本人を好きだからというより、好きな両親がそう望んでいるからという理由の方が大きいが、これからシャーロットのことを好きになる努力をすればいい。
そう結論付けて、自分を鼓舞する。
まぁ、まずはシャーロットに選ばれて婚約者候補から婚約者にならないといけないわけなんだけどさ。
「シャーロット殿下は――――」
「エドワード、使用人を下げてくださるかしら?」
こちらから話を振ろうとしたら、シャーロットがオレの言葉を遮るようにそう言った。
使用人を下げる、か。内緒の話でもあるのか?
まぁ、どのみちオレに拒否権はない。
「かしこまりました」
オレが手を振ると、爺をはじめとした使用人たちを部屋の外に出す。
「躊躇しませんのね?」
シャーロットの物言いは、少しだけ横柄というか、人を突き放すような冷たさを纏った気がする。心なしか、その眼付も鋭くなったような……。
「シャーロット殿下の仰せなので」
そう答えると、シャーロットは含み笑いを漏らす。
「他の殿方は、よっぽど使用人たちと離れるのが嫌だったのか、躊躇いたしましたわ。それなのに、あなたは少しも躊躇しなかった。それはなぜ?」
シャーロットがまるで問い詰めるように訊いてくる。
他の男たち。おそらく婚約者候補の男たちだろう。その気持ちがわかるような気がした。
シャーロットの婚約者候補ということは、オレと同じく十歳くらいだろう。そして、おそらく高位の貴族の息子だ。まだ王立魔道学院に入っていないので、自分より偉い同年代の子どもに会ったことはないはず。
つまり、シャーロットにどう接していいかわからないんだ。
そんな中で、自分を支えてカバーしてくれる使用人を下げるのは抵抗があるだろう。
それに……。
なんか、シャーロットの態度が高圧的なんだよなぁ……。
自分より偉い人に高圧的に出られると、かなり不利だ。下手に言い返して生意気なんて言われたら困ってしまう。
少なくとも、オレはシャーロットとの婚約を望んでいるのだ。下に付くことを望んでいるわけじゃない。
だから、オレは敢えて笑顔を浮かべてみせた。
オレが前世でどれだけ中卒というだけでナメられ、下に見られてきたか。
前世の理不尽な上司たちに比べれば、シャーロットの圧なんてかわいいものである。実際、超美人だしね。オレにはそういう趣味はないけど、ご褒美だという人もいるんじゃないだろうか?
「ふふっ」
なんだか、そんなことを考えていたら、シャーロットが虚勢を張っている子猫のようにかわいらしく見えてきた。自然と笑みが漏れてしまう。
「……何を笑っているの?」
「いえ、かわいらしいなと思いまして」
思った通りに答えると、シャーロットは激高したように立ち上がった。
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