011 王女様
コンコンコンッとこの屋敷を取り仕切る家令、エイベルが目の前のドアをノックする。
ガチャッとドアが少しだけ開くと、女性の使用人の片目が見えた。
見たことない顔だな。おそらく、シャーロットが王都から連れて来た使用人だろう。
「オールディス侯爵、クラリッサ侯爵夫人、ご子息、エドワード様がご挨拶に参りました」
「少々お待ちください」
女性使用人はそう言ってドアを閉めてしまう。
たぶん、シャーロットにオレと父上と母上の入室許可を取りに行ったのだろう。
貴族って、面倒な作法が多いよね。
自室で覚悟を決めたオレは、父上と母上と合流し、シャーロットに挨拶しに来ていた。
だが、いざこの時になるとやっぱり緊張するね。
「大丈夫ですよ、エドワード。いつものあなたで大丈夫ですわ」
「母上……」
オレの緊張を感じ取ったのか、母上がオレの背中を優しく撫でる。
「がんばります……!」
「その意気だぞ、エドワード!」
父上までオレを緊張をほぐそうとしてか、おちゃめにウィンクしてみせる。
オレは両親に恵まれているんだなぁ。
この両親の期待に、オレは応えたい!
その時、目の前のドアが大きく開かれる。
「シャーロット殿下のお許しがありました。どうぞ」
メイドの言葉に父上が頷くと、先陣を切って歩き出す。
いよいよこの時が来たか……。
だが、乗り切ってみせるぞ!
オレは母上に続いて入室する。
そこは、オレの自室よりも豪華な部屋だった。記憶にある父上と母上の部屋よりも豪華だろう。オールディス侯爵家のお屋敷にある一番いい部屋といってもいいだろう。
侯爵と言えば、貴族としての最高位であり、国の重鎮だ。王族が訪ねてくることもままある。そんな王族のために用意された部屋だ。
普段は無人の部屋であり、王族が訪ねてきた時にのみに解放される王族専用の部屋だ。
そんな圧倒されるような部屋の中に、さらに圧倒的な人物が立っていた。
まるで、美の女神が手ずから作り出した氷像を思わせる人物だ。
その長い髪は青みを帯びた冷ややかな色であり、瞳もまるで丹念に磨いた宝石を思わせるスカイブルー。常人よりも白いまるで血の気が引いたような肌に白と青を基調としたドレスを着ている。
これが、シャーロット・カチドニア。カチドニア王国の第一王女か。公式の紹介ページで知っているつもりだったけど、美しすぎるな。
「シャーロット殿下、お久しぶりでございます。カルヴィン・オールディスでございます。この度はご足労おかけいたしまして、申し訳ございません。ようこそ、オールディスへ」
父上は堂々とそうシャーロットに挨拶をした。
それを受けて、シャーロットも儚い笑顔を浮かべて応える。
「オールディス侯爵、此度はご招待ありがとうございます。侯爵の事情も知っているつもりです。お気になさらないでください」
「ありがとうございます。ご紹介させてください。こちらは儂の妻であるクラリッサです」
シャーロットが小さく頷くと、母上が一歩前に出てカーテシーを披露する。
「お久しぶりでございます、シャーロット殿下。クラリッサ・オールディスでございます。直接お会いするのは五年ぶりでしょうか。ますますお奇麗になられましたね。嫉妬してしまいそうですわ」
「お久しぶりです、クラリッサ夫人。王都すべての男性貴族を魅了したと言われるクラリッサ夫人に褒められると、恥ずかしい思いですわ」
マジか母上。そんな伝説を持ってるの⁉
まぁ、美人だとは思っていたけど、そんなすごい人だったとは思わなかった。
父上もユニークなヒゲをしているとはいえダンディーなイケメンだし、どうして二人の息子であるオレがこんなにも……。遺伝子仕事しろ!
「そして、儂たち二人の息子であるエドワードです」
「お初にお目にかかります、シャーロット殿下。エドワード・オールディスです。父上より今回のシャーロット殿下のご滞在中の供応役を仰せつかりました。よろしくお願いします」
シャーロットは少しだけ目を細めて口を開く。
「エドワード、なにかと面倒をかけるかもしれませんが、よろしくお願いしますね」
「かしこまりました」
とりあえず、これで面倒な挨拶は終わったな。
この後、父上と母上、オレとシャーロットでソファーに座ってお茶を飲みながら菓子を摘まみつつ、雑談に移る。
「陛下より侯爵に手紙を預かっています。これを」
その時、シャーロットがメイドから受け取った手紙を父上を渡す。
「これは、ありがとうございます。さっそく確認しなくては。急用だったら大変だ。そういうわけですので、シャーロット殿下、御前失礼いたします」
そう冗談めかして言うと、父上は席を外してしまった。
この場に残ったのは、母上とオレ、そしてシャーロットの三人だ。
そして、話題は最近の王都の流行についてになり、主に母上とシャーロットがしゃべっている。
その時、装飾品の話になった時にオレは思い出した。
そうだった。シャーロットにネックレスをプレゼントするのだった。
果たして気に入ってくれるだろうか……?
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