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第一部  【 停滞の掟と、餓えゆく王国 】  第二章 【 異端の同盟 】 第三話 【 地下動脈の開通 】

闇の中、湿った土と古い鉄の匂いが立ち込めていた。

アリストの地下深くに眠る、忘れ去られた古代地下水路。かつて大魔国との戦争期に物資輸送路として使われていたその巨大な空洞は、今や崩落した瓦礫がれきの下、ドブネズミの巣窟と化していた。

「……。ここを通すとおっしゃるのですか?」

松明を掲げたラグナルが、不気味に響く水音を背に眉をひそめた。

「地上を通れば即座に近衛の憲兵に見つかる。だが、ここなら王宮の鼻つまみ者どもも手を及ぼせまい」

リンは笠を脱ぎ、松明の火を壁面に押し当てた。古い導魔線どうませんに火が点り、壁に埋め込まれた古代の魔導灯どうまとうが、次々と青白い光を放ち始める。暗闇の奥へと続く広大な地下回廊が、あざやかに浮かび上がった。

そこへ、地上からの縦穴を下りてきた大勢の足音が響いた。

やってきたのは、旧ラグナ港から密かに移動してきたカイゲンの技師たち。そして地下闇市で集められたアリストの町人たちだった。

「おいおい。……。マジでこんな巨大な地下道が残ってたのかよ」

「すげぇ。……。これなら役人に目撃されずに荷物を運べるぞ!」

町人たちが感嘆の声を漏らす。彼らの手には、カイゲンから運び込まれたばかりの頑丈なスコップや最新式の魔導掘削機が握られていた。

リンは高台となった崩れかけた石壇に登り、集まった数百人の「罪人」たちを見下ろした。

「皆、よく集まってくれた!」

リンの声が地下回廊に力強く反響する。

「お前たちは王宮から『掟を破る不義の者』とさげすまれ、闇の中で細々と生きることをいられてきた。だが、本当に狂っているのは誰だ? 過去の栄光にしがみつき、民が餓死していくのを『清貧』と呼んで静観している王宮の方ではないのか!?」

「その通りだ!」

「役人どもの綺麗事にはもう飽き飽きだ!」

闇市の労働者たちから、地鳴りのような怒号と歓声が上がる。

「俺は今日、この地下水路を解放する!」

リンは拳を突き上げた。

「ここはただの逃げ場ではない。外の世界から届いた食料を、資材を、そしてこの国をよみがえらせるための『チカラ』を運ぶ、我らの動脈だ! この道を大霊樹のふもとまで開通させ、莫大な資源を掘り起こす! 働いた者には、相応の金と、腹いっぱいの白いパンを約束しよう!」

「ウオーーーーーッ!!」

怒号のような叫びが、地下空間を揺らした。

「正しさ」や「義務」では動かなかった人々が、「生きるための欲」と「正当な報酬」によって一瞬で一つにたばねられた。

「よし、作業開始だ! 瓦礫を撤去し、レールを敷け!」

カイゲンの技師たちの指示のもと、爆音とともに掘削機が動き始めた。

王国の歴史から抹消された罪人たちと、かつての敵国の技師たちが肩を並べ、泥にまみれて汗を流す。重い石を運ぶ者、線路を敷く者、炊き出しの白いパンと肉スープを分配する者。――そこには、地上ではうに失われた「爆発的な熱量」が満ちあふれていた。

「……。凄まじい光景ですな」

壁際で作業を見守っていたラグナルが、呆れたように、しかしどこか晴れやかな顔で呟いた。

「王宮の重臣どもが『下賤な私利私欲』と捨て去ったものが、これほどまでに巨大な国を動かすエンジンになるとは」

「人は誇りだけでは生きられないが、胃袋と希望があればいつでもい上がれる」

リンは汗をぬぐいながら、力強く動き続ける地下の動脈を見つめた。

わずか数日のうちに、古代の水路は巨大な「物流トンネル」へと姿を変えつつあった。

地上には気づかれぬまま、王国の心臓部へと向かって、泥臭くも圧倒的な復興の脈動が突き進んでいく。


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