4・2 - 第2話「珊瑚礁の檻(おり)と黒き爆雷」
第4部:新世界航路とグローバル通貨戦争編
第2章:新世界航路(大航海と遠征)
「……掛かったな、
金ピカの鉄くずども」
『アルティナ号』の甲板上。
つばの広い笠から覗く
アルティナの目が、
冷たくギラリと光った。
「ガルド!
『海中魔素爆雷』を起動しろ!」
『応よ!
アリストの
地下工廠で特注した、
水圧で誘爆する
『魔素拡散爆薬』だ!
帝国自慢の重い船底を
ぶち抜いてやれ!!』
通信魔導具から
ガルドの怒号が響いた直後――。
ズドドドドドォォォンッ!!!!
海面が
沸騰したかのように爆裂した。
浅瀬の海底に
敷き詰められていたのは、
アリストの
圧倒的な魔素工業力によって
製造された、
超高密度の海中爆雷群だった。
巨体と重装甲ゆえに
浅瀬で急速な旋回ができない
帝国の重巡洋艦たちが、
逃げ場を失ったまま
次々と爆雷の直撃を受ける。
「な……なにぃっ!?
爆発!?
船底から浸水だと!?」
「か、舵が効きません!
珊瑚礁に座礁します!」
大混乱に陥る帝国艦隊。
重武装と
圧倒的な重量を誇っていた
帝国の巡洋艦は、
狭く浅い珊瑚礁の中では
ただの
「動きの取れない巨大な標的」
に過ぎなかった。
そこへ、
海域の地形を熟知した
バルバロッサの海賊船と、
アリストの高速装甲船が
影のように忍び寄る。
「野郎ども!
動きの止まった
金ピカの船に乗り込めぇっ!
帝国の金貨と蒸気機関を
丸ごと分取りだぁぁっ!!」
「ウオオオオオッ!!!!」
アトランツの海賊たちと、
アリストの泥の兵士たちが、
鉤縄を手にして
大挙して帝国艦に雪崩れ込んだ。
白兵戦の混乱の中、
『アルティナ号』は
驚異的な機動力で
敵の主力をすり抜け、
大混乱の渦中に
取り残された旗艦
『グロース・ヴァルハイト』
の目と鼻の先へと接舷した。
船首に躍り出た
アルティナの腰の長剣が、
血と爆発の光を
反射してギラリと閃く。
「オズワルド長官!
貴様らの誇る
『金の力』と
『巨艦』の強さは、
その程度のものか!?」
アルティナの声が、
爆炎の上がる海原へ
轟き渡った。
「な、なんだと……!?
我が帝国の象徴たる
巨大戦艦に、
あんな泥の小船が
直接
挑みかかってくるだと!?」
旗艦
『グロース・ヴァルハイト』
の甲板上。
オズワルド司令長官は、
迫り来る『アルティナ号』の
圧倒的な気迫に気おされ、
思わず後ずさった。
「撃て!
撃ち殺せ!
あの生意気な
落ちこぼれ王子を、
今すぐ蜂の巣にしろ!!」
帝国の甲冑兵たちが一斉に
蒸気魔導銃を構え、
火花を散らして弾丸を放つ。
だが――。
―――ガアアンッ!!
甲板へ躍り出たラグナルの
巨大な黒鋼大剣が、
弾丸の雨を正面から
弾き飛ばした。
「殿下の御前である!
控えよ、帝国の兵ども!!」
ラグナルの一閃が
敵の重装甲兵を
まとめて薙ぎ払い、
続いて
ガルド提督率いる
アリストの精鋭兵たちが
鉤縄を伝って雪崩れ込んだ。
「ハッ!
図体ばかりデカくて、
中身はガタガタじゃねぇか!」
ガルドは
大型魔導拳銃を乱射しながら
爆笑し、
艦上の機関砲を即座に奪取。
そのまま
帝国の兵士たちへ向けて
逆噴射の火柱を叩き込んだ。
戦首の混乱を掻き分け、
旅人笠を被った
リン・アルティナ・セルヴァ
摂政が、
静かにオズワルド長官の
前へと歩み寄る。
「ひ、ひぃぃっ……!
来るな!
悪魔め!」
オズワルドは
腰の飾剣を
必死に抜こうとするが、
アルティナの差し出した
長剣の刃先が、一瞬で
その喉元を凍りつかせた。
「オズワルド長官。
貴様らの
『金本位制』と
『蒸気兵器』の強大さは
認めよう。……だが、
それを過信し、
現場の泥臭い戦術と
実利を見下したのが
貴様の敗因だ。」
アルティナは
眼下の海原を見下ろした。
爆雷に沈み、
あるいは
海賊たちに接収された
帝国巡洋艦の群れ。
珊瑚礁の檻の中で、
第一太平洋艦隊は
完膚なきまでに崩壊していた。
「この船と
生き残りの兵の
命が欲しければ、
アトランツからの
即時撤退と、
新大陸アルティナ本土の
港における『セルヴァ札』の
取引解禁の通達を出せ。」
「くっ……!
我がヴァルハイト帝国が……
不当な紙きれでの取引を
認めるなど……!
皇帝陛下が許すはずがない!」
「許さなくてもやるのだよ」
アルティナは言い放った。
「断るなら、
この旗艦ごと海へ沈め、
我が国が誇る
『セルヴァ札』の
第一号沈没船として
新大陸へ
見せしめに沈めて
やるまでだ。……
命と誇り、どちらが重いか、
貴様が得意な
『価値の計算』をしてみるがいい。」
「っ…………!!」
オズワルドは
歯を喰いしばり、
屈辱の涙を流しながら、
ついに
白旗の掲揚を
命じたのだった。
数日後。
アトランツでの大勝利の報は、
大洋の波に乗って
瞬く間に
新旧両大陸へと駆け抜けた。
「群島連邦アトランツ」は
正式にアリストと同盟を結び、
『セルヴァ札』を
大洋の基軸通貨として採用。
ヴァルハイト帝国の
金貨による貿易独占は、
喉元で完全に断ち切られた。
そして――。
『アルティナ号』を
はじめとする
アリストとアトランツの
連合船団は、
荒れ狂う大洋を乗り越え、
ついに
雲の切れ間から覗く
広大な大地を目にしていた。
「あれが……
新大陸『アルティナ』か……!」
ラグナルが
船首から
息を呑んで見上げる。
そこに広がっていたのは、
見渡す限りの蒸気の煙と、
天を突く超高層ビル群、
そして無数の
金・銀の装飾に彩られた、
旧大陸の常識を
遥かに超える巨大工業国家――
ヴァルハイト帝国の本土だった。
「ようやくだな」
アルティナは
旅人笠を深くかぶり直し、
胸元の魔素コアを
強く握りしめた。
「金と権力で
世界を支配してきた
超巨大帝国よ。……
この
『アルティナ摂政』リンが、
泥と紙の力で、
貴様らの金の価値を
ゼロにしてやる。」
世界を覆う市場のルールを
塗り替えるため、
落ちこぼれ王子と
泥の同志たちは、
ついに新大陸の地へと
一歩を踏み出すのだった。
(第4部・完)
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10/29 17:10に
第5部 第1話を投稿します。




