4・1 - 第3話「大洋の突破口」
『ハッ!
任せときなアルティナ摂政!
アリストの工廠で
チューンアップした
『魔素過給蒸気機関』の
底力を見せてやるぜ!!』
操舵室から
ガルドの大爆笑が
響くと同時に、
『アルティナ号』の
後部噴射口から
青白い魔素の火柱が
吹き荒れた。
船体はまるで
海面を滑る矢のように
跳ね上がり、
帝国の放った砲弾の雨を
脅威的な速度で
ことごとく
置き去りにしていく。
「な……なにあの速度は!?
帝国の最新鋭艦の
倍以上だと……!?」
狼狽する帝国艦隊をよそに、
リン・アルティナの手にした
魔導投射機が
地鳴りのような重低音を
響かせた。
「喰らっておけ。
アリストの『紙くず』の重みだ」
放たれたのは、
新開発の磁性魔素徹甲弾。
帝国艦の蒸気ボイラーへ
着弾した瞬間、
過剰な
魔素反応を引き起こし、
ボイラー内部の蒸気を
一気に逆流・爆発させた。
ドドドォォォンッ!!!!
監視していた
巡洋艦の二隻が、
機関部を爆砕されて
大火災を起こし、
航行不能へと陥っていく。
「バ……バカな……!
たった一隻の試作船に、
我が帝国の最鋭艦が
破られたというのか……!?」
崩れ去る艦橋で
絶句する帝国兵たちを背に、
『アルティナ号』は
荒れ狂う大洋の果てへと
突き進んでいく。
数日後。
新旧両大陸の
中間に位置する、
無限の巨岩と珊瑚礁に
囲まれた巨大な水上都市
――『群島連邦アトランツ』。
世界中の
海賊、
密輸商、
そして各国の
情報屋がひしめく
この混沌の都市に、
『アルティナ号』は
堂々と港へ滑り込んだ。
港の酒場へ
足を踏み入れた
リン・アルティナを
待っていたのは、
群島連邦の
陰の支配者であり、
大洋の海賊諸島を束ねる
総督の女大傑、
バルバロッサだった。
「……噂には聞いていたよ、
旧大陸の落ちこぼれ王子。
いや……今や世界を
『紙きれ』で揺るがす
アルティナ摂政か。……」
バルバロッサは
腰の巨大な曲刀に手を当て、
不敵に笑った。
「ヴァルハイトの
帝国艦隊を
力ずくで突破して
ここまで来るとはな。
だが、何の用だ?
このアトランツは
『金』しか
信じない街だぜ?」
リンは歩み寄ると、
バルバロッサの前の
テーブルに、
一枚の「セルヴァ札」と、
アリスト特製の
「極小サイズ
魔素鋼インゴット」を
並べて置いた。
「金しか信じない街か。……
ならば、その金が
明日から紙くず以下の
鉄くずになる恐怖を
教えてやろう」
「なに……?」
バルバロッサが
眉をひそめる。
「ヴァルハイト帝国は
『金銀本位制』で世界を縛り、
自国の莫大な金鉱脈で
市場を独占しようと
している。……だが、
彼らが金を
発行すればするほど、
市場の金の価値は下がり、
代わりに
市場で本物として必要と
されるのは
『魔素鋼』という実利の資材だ」
リンは不敵にあざ笑った。
「このアトランツを
『セルヴァ札』の
秘密決済特区に指定する。
アトランツ経由で
魔素鋼を購入する
すべての商人に対し、
アリストの銀行が
莫大な『利子(信用)』を
保証してやる。
ヴァルハイトの金貨を
投げ捨てて
我が国の『紙』を
受け取るなら、
お前たちに
大洋の全貿易利権の
三割を譲ろう」
「……三割だと!?」
バルバロッサの息が止まる。
それは
ヴァルハイト帝国が
提示してきた
掠め取るような
金貨の賄賂とは
比べものにならない、
巨大な「未来の富」だった。
「綺麗事の金に縋って
帝国の植民地にされるか。
それとも、
泥の紙を受け取って
世界経済の覇者になるか。……
選べ、アトランツ」
アルティナ摂政
リンの手によって、
新大陸の喉元である
大洋の真ん中に、
帝国を揺るがす巨大な
「紙の裏ルート」が
打ち込まれた。
金と
信用の死闘は、
新大陸アルティナを
巻き込んだ
全地球規模の金融戦争へと、
その牙を向いていくのだった。
(第四部・第一章 完)
明日 17:10 に投稿します。




