4 ・1 - 第2話「中立地帯『アトランツ』」
第4部:新世界航路とグローバル通貨戦争編
第1章:大洋の果てからの使者
「……やりやがったな、
あの黒い煙を噴く鉄くずども」
ガルド提督が不機嫌そうに
葉巻の煙を吐き出し、
地図の上に拳を叩きつけた。
「ヴァルハイトの巡洋艦隊が、
大洋の中継点である
『沖合の海峡』を
占拠したそうだ。
アリストの旗を掲げた
船どころか、
『セルヴァ札』で
買い付けられた荷を
積んだ商船まで
片っ端から臨検し、
臨検に応じなきゃ
魔導蒸気砲で
沈めにかかってやがる」
「それだけではありません」
ラグナルが顔を曇らせ、
手元の報告書を差し出した。
「帝国の工作員が、
異国の商業ギルドに
手を回しております。
『セルヴァ札は
金銀の裏付けがない
偽りの紙であり、暴落する』
というデマを
大量に流し始めました。
すでに他国の港では、
セルヴァ札を
受け取り拒否する動きが
出始めています……!」
かつて
神聖帝国や
カイゲンを相手に
大勝利を収めた
アリストの「紙の覇権」。
だが、
ヴァルハイト帝国は
その「圧倒的な武力」と
「世界の金鉱脈を握る
圧倒的な資本力」を背景に、
アリストの通貨を
物理的にも
心理的にも
根底から潰しに来ていたのだ。
だが、
部屋の最奥に座る
アルティナ摂政――
リンの顔には、
一切の動揺がなかった。
「……金の力で
紙(信用)を圧殺する、か」
リンは
旅人笠を静かに机の上に置き、
組んだ手の上に顎を乗せた。
「奴らの狙いはシンプルだ。
俺たちが
大洋へ進出する道を塞ぎ、
セルヴァ札の流通範囲を
旧大陸の狭い枠内に
閉じ込めること。
市場が狭まれば、
紙幣の価値は
自然と暴落するからな」
「どうするんだ、
アルティナ摂政?」
ガルドが
義眼をギラリと光らせた。
「あのヴァルハイトの
蒸気戦艦は伊達じゃねぇぞ。
アリストの今の船じゃ、
射程も装甲も一段落ちる。
正面から撃ち合えば、
こっちの被害が大きすぎる」
「正面から撃ち合う必要はない」
リンは立ち上がり、
大地図の中央――
旧大陸と新大陸の
ちょうど中間に位置する
無数の島々、
『群島連邦アトランツ』を
指さした。
「ヴァルハイトの
金本位制にも、
決定的な弱点がある」
「弱点……?」
ラグナルが目を見開く。
「金や銀は、
採掘量と現物の量に
限界があるということだ」
リンは不敵にあざ笑った。
「奴らがいくら金で
世界を買い叩こうとしても、
市場を回すだけの現物が
手元になくなれば
経済は凍りつく。
そして、その金鉱脈と
物流の重要拠点を
握っているのが、
この中立地帯『アトランツ』だ」
リン・アルティナは
長剣を抜き放ち、
アトランツの島々へ
刃を突き立てた。
「ガルド!
アリストが誇る
最速の高速装甲船と、
極秘裏に建造していた
『試作蒸気魔導船』を出せ!
俺自らアトランツへ乗り込む!」
「アルティナ摂政!
敵の包囲網を突破して
大洋へ出ようと
いうのですか!?」
ラグナルが驚愕の声を上げる。
「そうだ」
アルティナの瞳に、
狂気と野心が燃え上がる。
「ヴァルハイトが
金で世界を縛るというなら、
俺たちは
その金の流れる
大血管を叩き切る。
新大陸の怪物どもに
教えてやろう……
『アルティナ』の名を
冠したこの俺が、
世界経済の
新しい支配者だということ
をな!」
漆黒の闇が覆う
大洋の入り口。
波高き「嵐の海峡」にて、
ヴァルハイト帝国の
蒸気巡洋艦3隻が
黒煙を吐き上げ、
監視の目を光らせていた。
「報告!
港の方角より接近する
船影あり!
旗章は……アリストの赤手形!」
監視兵の叫び声に、
巡洋艦の艦長が
あざ笑いを浮かべた。
「落ちこぼれ王子の
手先どもめ、
闇に乗じて脱出できると
思ったか!
全主砲、照準合わせ!
泥の船など
海の屑にしてやれ!」
ズドオオオオンッ!!!!
帝国の蒸気魔導砲を
一斉に噴火させ、
海面を叩き割る。
しかし、
爆炎を切り裂いて
出現したのは、
従来の木造船ではなく、
大霊樹の特殊魔素
インゴットで覆われた
漆黒の超高速船――
アリストの極秘試作船
『アルティナ号』だった。
「遅いな、
新大陸の鉄くずども」
『アルティナ号』の
艦首に立つアルティナ摂政
リンが、
笠のつばを
軽く持ち上げながら
冷笑を浮かべる。
「ガルド!
回避運動はいらん!
最短距離で突破しろ!」
明日 17:10 に投稿します。




