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4・1 - 第1話「黒鋼の巨獣と黄金の要求」

第4部:新世界航路とグローバル通貨戦争編


第1章:大洋の果てからの使者

「貴様らが流通させている

『セルヴァ札』なる紙きれは、

金銀の裏付けを持たぬ

不当な詐欺通貨であり、

世界経済の秩序を乱す

毒に他ならん!


アルティナ摂政!


直ちに紙幣の発行を停止し、

これまで得た利益を

すべて純金貨として

我が帝国へ納めよ!


さもなくば――

我が帝国の蒸気魔導艦隊が、

この港を

灰燼(かいじん)に帰すこととなるぞ!」



圧倒的な軍事力を背景にした、

一歩も引かぬ宣戦布告と

同義の脅迫。


港の労働者や商人たちが

息を呑む中、

リン・アルティナ摂政は

落ちていた文書を一瞥(いちべつ)し、

冷ややかにあざ笑った。


「……金の裏付け、か」


リンは

旅人笠のつばを軽く持ち上げ、

カイザーを

射抜くような鋭い眼差しで

見つめた。


「使節殿。

あんた方の

その立派な黒鋼の船も、

蒸気機関の圧力弁も、

すべて

我がアリストが産出する

『超高純度魔素鋼』なしでは

動かんのだろう?」


「な……なに?」


「金貨の山で

腹が膨れるなら、

その船に金を詰め込んで

帰るがいい。……

だが、

我が国の紙きれを

突っぱねるというなら、

今日から

ヴァルハイト帝国への

魔素鋼の輸出は

一グラムたりとも認めん」


リンは

足元の文書を

泥で汚れるのも構わず

踏みつけ、一歩踏み出した。


「海の向こうの

巨大帝国だろうが関係ない。

我がアリストの

ルールに従えないなら、

その自慢の蒸気船ごと

サメのエサに

なってもらうまでだ」


「く……狂っているのか

アルティナ摂政……!

帝国の圧倒的な威容を

目にしながら、

なお抗(あらが)うというのか!?」


「狂っているのは、

金属の輝きに目が眩んで

実利が見えなくなっている

あんた方の方だ」


リン・アルティナ摂政の

言葉が、

海風に乗って

黒鋼の艦隊へと突き刺さる。


旧大陸を制した「信用」と、

新大陸の誇る

「圧倒的な金と蒸気」。


世界市場の覇権をかけた

新たな戦争の火蓋が、

いま切って落とされた。



【新世界の影と「金」の楔(くさび)】


「破裂しろ!

あの生意気な泥の摂政め!」


ヴァルハイト帝国の

黒鋼戦艦『ヴァルキリー』の

最上層艦橋。


カイザー全権大使は、

豪奢(ごうしゃ)な絨毯(じゅうたん)に

ワイングラスを叩きつけ、

真っ赤な液体を

撒(ま)き散らしていた。


「旧大陸の辺境で

成り上がっただけの

落ちこぼれ王子が……

『アルティナ摂政』などと

身の程知らずな名を騙(かた)り、

帝国の誇る金銀本位制を

愚弄するなど許しがたい!」


カイザーの傍らに

静かに控えていたのは、

帝国海軍提督の

ベルンハルトだった。


漆黒の軍服に

無数の勲章を躍らせ、

水平線を見つめている。


「大使。

感情的になるのは禁物です。

奴らの放つ

『セルヴァ札』とやら……

ただの紙きれに過ぎん

はずですが、

カイゲンや帝国の商人どもが

狂ったように溜(た)め込んでいる

のは事実。


あのアルティナ摂政、

ただの野蛮人ではありませんな」


「ふん!

どれほど知略を巡らせようと、

裏付けのない紙など

金の価値の前には無力だ!」


カイザーは窓の外、

ラグナ港のドックに並ぶ

アリストの

木造・鋼鉄混合船団を見下ろし、

舌を打ち鳴らした。


「ベルンハルト提督。

直ちに

『第一次経済圧迫作戦』を

開始せよ。

旧大陸と新大陸を結ぶ

大洋の全貿易ルートを遮断し、

セルヴァ札を使用する船は

問答無用で撃沈せよ。

金の価値を教えてやるのだ」



同刻。


アリスト中央行政庁舎の

作戦会議室。


壁一面に掲げられたのは、

旧大陸の西に広がる

未知の巨洋と、

その彼方に描かれた巨大な

「新大陸アルティナ」の

大地図だった。


「……やりやがったな、

あの黒い煙を噴く鉄くずども」

本日 17:10 に投稿します。

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