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2 - 第1話「迫り来る十万の鉄脚」

第3部「 新貨と覇権編 」  


第2章「大霊樹の覚醒と『最後の泥』」

「逃げる? 滅そうもない」


リン・アルティナは立ち上がり、

旅人笠を静かにかぶり直した。


その瞳に宿っていたのは、

かつて

王宮の泥沼から立ち上がり、

世界のルールをぶち壊してきた

「落ちこぼれ王子」の

狂気だった。


「旧体制の栄光に縋(すが)り、

 紙の一枚に

 経済をジャックされた

 哀(あわ)れな超大国どもだ。……

 自分たちの時代が

 とっくに終わっていることを、

 その体に直接刻み込んでやる」


リン・アルティナは

長剣を抜き放ち、

眼下に広がる

熱狂のアリストの街へと

刃を向けた。


「全軍へ通達!

 闇市の元用心棒、

 工廠(こうしょう)の作業員、

 港の水夫、

 そしてかつての近衛(このえ)兵……

『アリスト泥の連合軍』を

 結成しろ!

 俺たちのパンと未来を

 奪いに来る

 皇帝と元老院どもを、

 この泥の街へ

 引きずり込んで

 返り討ちにしてやる!!」


「ウオオオオオッ!!!!」


街全体から轟(とどろ)く、

何万もの

民衆と兵士たちの野性的な咆哮(ほうこう)。


「紙きれ」1枚で

世界の経済を破砕(ふんさい)した

落ちこぼれ王子リン・アルティナ。


物語はいよいよ、

大陸の超大国との

生き残りをかけた最終決戦

へと、突入していく。



地鳴りのような重低音が、

セルヴァ王国の

北の平原を揺らしていた。


北方「神聖帝国」の

第一皇子ハインリヒが率いる、

10万の

重装歩兵と魔導騎兵の軍勢。


その整然とした鉄の陣形は、

地平線を

黒く塗りつぶすほどの

大軍であった。


彼らが掲げるのは、

白銀の聖十字旗。


かつての大戦争で

魔国を滅ぼした

「世界の保護者」としての

圧倒的な威圧感が、

そこにはあった。


一方、

アリストの北国境、

かつて

「聖域の監視砦」と呼ばれていた

古びた丘の上。


そこに陣取っていたのは、

あまりにも異様な軍団――

「アリスト泥の連合軍」だった。


銀色の旧近衛の甲冑を

粗末な作業着の上から

羽織った元兵士。


工廠(こうしょう)の油と煤(すす)にまみれ、

巨大な魔素鋼のハンマーや

槌(つち)を担いだ鉱夫や作業員たち。


かつて

闇市で刃を振り回していた

元用心棒やならず者。


そして、

ガルド提督率いる

カイゲン私設艦隊の

粗野な水夫たち。


正規の陣形など

そこには存在しない。


あるのは、

自分たちの手で掴み取った

「パンと肉と銭」を

奪いに来る侵略者に対する、

野性的で

剥(む)き出しの怒りだけだった。


「ハッ、見ろよあの兵隊ども」


陣頭に立つガルド提督が、

不機嫌そうに

葉巻の煙を吐き捨てた。


「綺麗に並んだ

 お人形さんたちだ。

 本国の

 元老院のタヌキどもといい、

 帝国の皇帝といい、

『紙の金貨』じゃ

 俺たちを干上がらせられねぇと

 分かった途端、

 大軍を押し出して

 力ずくで

 分取ろうって魂胆だな」


「奴らが

 守ろうとしているのは、

 自分たちの

『格式』と『権威』です」


隣に立つラグナルが、

漆黒に鍛え直された

魔素鋼の大剣を

地面に突き立てた。


「我らが『セルヴァ札』で

 世界の経済を握ったことが、

 奴らには

 耐えられないのです。……

 ですが摂政殿下、敵は十万。

 対する我が方は、

 工廠の作業員や

 志願した民を合わせても

 二万弱。

 正面からのぶつかり合いでは、

 数の差が

 あまりにも大きすぎます」


「正面から

 ぶつかる必要などない」


二人から一歩進み出たのは、

つばの広い旅人笠を

深くかぶり直した

摂政リン・アルティナだった。


リンの腰には一本の長剣、

そして胸元には

大霊樹の深奥から切り出された

漆黒の「魔素コア」が

怪しい光を放っていた。


「帝国軍のハインリヒ皇子は

『正統なる聖国の解放』を

 謳(うた)っている。

 我が国を過去の

『美しく清らかな貧乏国』に戻し、

 大霊樹の鉱山を

 帝国の直轄領にするつもりだ。……

 民に聞いてみろ。

 誰がそんな

『美しい過去』に

 戻りたがっているかをな」


リン・アルティナが振り返り、

泥にまみれた

二万の軍勢に向かって

不敵に笑った。


「アリストの野郎ども!

 聞こえるか!」


リン・アルティナの声が、

アリスト工廠製の

魔導拡声器を通じて

丘全体に響き渡る。


「帝国の偉そうな皇子様が、

 10万の兵を連れて

 やってきたぞ!

 奴らの目的はただ一つ!

 お前たちが

 血汗流して稼いだ

『セルヴァ札』を

 ただの紙くずへ戻し、

 再び

 1日半個の

 腐った黒パンを分け合う

『綺麗な地獄』へ

 俺たちを叩き落とすことだ!」


「冗談じゃねぇ!!」


「ふざけるな!!」

明日 17:10 に投稿します。

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