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1 - 第4話「破滅の『金貨』と紙の覇権」

第3部「 新貨と覇権編 」  


第1章「 破滅の『紙くず』」

「お前たちが溜め込んでいる

 その綺麗な金貨は、

 明日からただの

『重い黄色いゴミ』になる。……

 世界を動かすのは

 権威でも金属でもない。

 泥を啜(すす)ってでも

 生き残ろうとする

 人間の『欲望』だ」


リン・アルティナの手が一閃(いっせん)し、

密偵は

物言わぬ肉塊となって

崩れ落ちた。


経済制裁という超大国の牙を、

一枚の「紙」と

「圧倒的な実利」で

粉砕(ふんさい)したアリスト。


だが、

事態を重く見た

北方神聖帝国は、ついに

「経済」ではなく

「物理的な力」による

圧殺へと

舵(かじ)を切り始めるのだった。


アリストの街に溢(あふ)れかえった

「セルヴァ札(新紙幣)」は、

もはや単なる

代替通貨ではなかった。


『セルヴァ札を持参すれば、

 アリストの高品質な

 魔素鋼を直接購入できる』


『セルヴァ札を使えば、

 大商人ゴルドーのギルドから

 破格の安値で穀物や肉が買える』


この二つの

強烈な実績が生まれた瞬間、

紙幣の「信用」は

暴風のような勢いで

大陸全土へと伝播(でんぱ)していった。


アリストの港には、

カイゲン本国や

神聖帝国の厳罰をかいくぐり、

自国の金貨を

大量に積み込んだ密輸船が

連日押し寄せていた。


彼らの目的はただ一つ――

自国の金貨を

アリストの銀行へ預け入れ、

喉から手が出るほど欲しい

『セルヴァ札』へ

両替することだった。


「頼む!

 金貨三千枚だ!

 これを全部

『セルヴァ札』に替えてくれ!」


「うちのドックは

 アリストの魔素鋼が

 届かなくて

 操業停止寸前なんだ!

 頼むから札を譲ってくれ!」


アリスト中央銀行の窓口には、

かつて

内陸の貧乏国と見下していた

異国の商人たちが、

額(ひたい)を地面に擦(す)り付けて

懇願する異様な光景が

広がっていた。


「……信じられんな」


中央行政庁舎の執務室。


ラグナルが

窓の外の長蛇の列を見下ろし、

呆然と呟(つぶや)いた。


「ほんの数週間前まで、

 我が国は

『金貨が通用しなくなる』

 という兵糧攻めに

 怯(おび)えておりました。

 それが今や、

 他国の商人どもが

 自国の金貨を投げ捨て、

 我が国の『紙』を

 買い求めて頭を下げている……」


「これが

『実利』の力だ、ラグナル」


リン・アルティナは

執務机の上で、

カイゲン本国から届いた

極秘の経済報告書に

目を通しながら笑った。


「帝国もカイゲン本国も、

『金貨』という

 古くさい権威の枠組みで

 俺たちを殺せると

 思い込んでいた。

 だが、実際に船を造り、

 武器を鍛え、

 腹を満たすために必要なのは

 金貨の輝きではない。

『鉄』と『食料』そのものだ。

 その二つを握っている俺たちが

『この紙でしか売らん』と言えば、

 世界中の人間が

 俺たちのルールに

 従うしかないのだよ」


「ですが摂政殿下、……」


ガルド提督が

不機嫌そうに

葉巻の煙を吹き上げた。


「カイゲン本国と

 神聖帝国の面目は

 これで丸潰(まるつぶ)れだ。

 本国じゃ金貨の価値が暴落し、

 物価が高騰して

 大パニックが起きてる。

 追い詰められた

 元老院のタヌキどもと

 帝国の皇帝が、

 このまま

 引き下がるわけがねぇぞ」


「ああ、

 引き下がるはずがないさ」


リン・アルティナは

報告書を机の上に放り投げた。


「奴らは

『経済』というルールで

 勝てなくなった。……

 ならば次に何をする?」


「……『暴力(戦争)』ですな」


ラグナルが

長剣の柄を強く握りしめた。


まさにその時、

執務室の重い扉が

勢いよく開かれ、

早馬の伝令が飛び込んできた。


「報! 報告いたします!

 北方『神聖帝国』の

 第一皇子率いる

 十万の重装軍勢が、

 セルヴァ北部国境の砦を突破!

 アリストへ向けて

 電撃侵攻を開始いたしました!」


「さらに

 カイゲン本国中央評議会も、

 残存する

 全第1・第2艦隊を結集!

 総数50隻を超える

『大連合艦隊』が、

 ラグナ港へ向けて

 出撃した模様です!」


室内に緊張が走る。


大陸の2大超大国が、

ついに

「面目」と

「覇権」をかけた

総力戦へと舵を切ったのだ。


「両挟みか……。

 本気で我が国を

 地図の上から消し去る気だな」


ガルドが義眼を血走らせ、

凶暴なあざ笑いを浮かべた。


「だが、摂政。

 いまの俺たちには、

 この一年で鍛え上げた

『泥の軍隊』と、

 大陸中から集めた

 莫大な『紙の富』がある。……

 逃げ隠れする理由はねぇぞ」


「逃げる? 滅そうもない」

明朝 6:10 に投稿します。

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