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1 - 第3話「最強の武器へと変貌」

第3部「 新貨と覇権編 」  第1章「 破滅の『紙くず』」

リンは

胸ポケットから束になった

『セルヴァ札』を取り出し、

高く掲げた。


「貴様らが恐れているのは、

 この紙きれを持って

 港に行っても、

 小麦が一粒も

 買えないことだな?

 帝国とカイゲンが

 俺たちを干上がらせようと、

 外からの船を

 止めているからだな!?」


「そうだ!」


「金貨があっても

 食い物がねえんだ!

 紙なんかで腹が膨れるか!」


群衆から罵声(ばせい)が飛ぶ。


「ならば、港を見ろ!!」


リンが長剣で

ラグナ大国際港の方角を

指し示した。


その瞬間――。


ゴオオオオオオオオッ……!!


港の沖合から、

腹に響く

凄(すさ)まじい汽笛の音が轟(とどろ)いた。


民衆が一斉に振り返る。


ラグナ港の

水平線から現れたのは、

巨大な

「黒塗り大型武装商船」の

船団だった。


その数、実に30隻以上。


船体に描かれていたのは、

カイゲン本国の

正規紋章ではない。


大陸最大の秘密商業ギルド

『黒い天秤(てんびん)』の漆黒(しっこく)の旗印だった。


「な……なんだあの船団は!?」


「帝国の禁輸令が

 出ているはずじゃ……!?」


どよめく群衆をよそに、

30隻の大型商船が

次々とラグナ港の

ドックへ横付けされていく。


甲板から

威勢よく投げ降ろされたのは、

山のような小麦の袋、

塩漬けの肉樽、そして

最新の医薬品や織物の山だった。


「な、なんだと……!?

 なぜギルドの船が……!?」


行政庁舎の影に潜んでいた

カイゲンの密偵が、

絶望に襲(おそ)われ

目を剥(む)いた。


「バカな!

 本国元老院から

『アリストと取引する者は

 大陸から追放する』と

 厳命が出ているはずだぞ!

 なぜ

 布令(ふれ)を押してまで密輸を……!?」


港の埠頭(ふとう)へ、

リンがゆっくりと歩み寄る。


船団の

先頭から降りてきたのは、

巨大な天秤(てんびん)の刺青(いれずみ)を

顔に刻(きざ)んだ大陸闇市場の顔役、

大商人ゴルドーだった。


「……ひどい言われようだな、

 リン・アルティナ・セルヴァ摂政殿」


ゴルドーは不敵に笑い、

摂政リン・アルティナの前に

跪(ひざまず)いた。


「帝国の禁輸令など、

 我ら『黒い天秤』にとっては

 ただの『利益の上乗せ理由』

 に過ぎん。……

 で、約束のものは?」


アルティナ摂政は

手にした『セルヴァ札』の束を、

ゴルドーの前に放り投げた。


「持っていけ。

 アリストの最高品質魔素鋼

 インゴット5,000トン分の

 購入手形を兼ねた、

 第1期『セルヴァ札』だ」


ゴルドーは

震える手で紙幣を受け取り、

うっとりとした表情で

その感触を確かめた。


「最高だ……!

 帝国やカイゲンの

 元老院どもは、

 金貨の禁輸で

 アンタらを殺せると

 思っている。

 だが、

 世界の造船所も兵器工廠も、

 アリストの魔素鋼なしでは

 一日たりとも回らん……!

 奴らが密(ひそ)かに

 喉から手が出るほど

 欲しがっているこの『鉄』を

 買い占める権利が、

 この紙1枚に

 詰まっているのだからな!」


ゴルドーは振り向き、

船員たちへ

雷のような怒声を上げた!


「野郎ども!

 小麦の樽(たる)を降ろせ!

 本日から、

 この『セルヴァ札』で

 払う店には、

 我がギルドの食料を

 市場価格の半値で卸してやる!

 紙きれを持ってきた民に、

 溢(あふ)れるほどの

 パンを食わせてやれ!!」


「ウオオオオオッ!!!!」


港を揺るがす

地鳴りのような大歓声。


広場に集まっていた民衆は、

争うように

『セルヴァ札』を握りしめ、

港の特設市場へと雪崩れ込んだ。


市場では、

数前まで手に入らなかった

白いパンや肉が、

新紙幣と引き換えに

次々と民の手へ渡っていく。


「買えた……!

 本当に紙で

 パンが買えたぞ!!」


「しかも

 金貨の時より安いくらいだ!」


「摂政殿下万歳!

 セルヴァ札万歳だ!!」


熱狂と歓喜が

アリストの街を包み込む。


「紙」に

命が吹き込まれた瞬間だった。


アリストの民にとって、

その紙きれは

ただの印刷物ではなく、

「自分たちの

 腹を満たす最強の武器」

へと変貌したのだ。


その光景を、

庁舎の陰で

カイゲンの密偵が

歯ぎしりしながら見つめていた。


「く、くそ……!

 狂っている!

 こんな紙きれで

 経済を回すなど……

 本国へ知らせねば!

 元老院閣下へ――」


「遅いな」


密偵の首筋に、

冷たい刃が突きつけられた。


振り向くと、そこには

笑みを浮かべた

リン・アルティナが立っていた。


「本国の貴族どもに教えてやれ」


アルティナは

密偵の耳元で、

低く恐ろしい声を囁(ささや)いた。


「お前たちが溜め込んでいる

 その綺麗な金貨は、……」

本日 17:10 に投稿します。

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