↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/38

第二部【狂乱の海原編】第一章【開国の咆哮】第二話【海の刺客と地下の鋳造所】

陸の旧体制を叩き潰した落ちこぼれ王子リン。


次なる敵は、

大海原を支配する「巨大国家カイゲン」。


生き残りをかけた、さらに苛烈で泥臭い

「大海原の開国戦争」が、

いま幕を開けようとしていた。

ヴィンセント特使が吐き捨てた

開戦の予告は、

瞬く間にアリストの街へと波及した。


だが、かつてのセルヴァ王国のように、

民衆が「神の試練」と称して恐怖に怯(おび)え、

祈りを捧げるような光景は

どこにもなかった。


「おい!

 カイゲンの偉そうな本国貴族どもが、

 俺たちの港を火の海にするだとよ!」


「ハッ! 馬鹿め!

 俺たちのパンと仕事を奪おうとする奴らは、

 どこのどいつだろうと叩きのめすまでだ!」


「工廠の夜勤(シフト)を増やせ!

 インゴットだけじゃねぇ、

 近衛(このえ)の奴らが使う槍や矢の先端に付ける

 魔素鋼の鏃(やじり)を叩き上げろ!」


アリストの街を支配していたのは、

悲壮感ではなく「戦意」と「激怒」だった。


一度でも自分の手で金を稼ぎ、

腹いっぱいに

白いパンを食う快感を知った民にとって、

それを奪おうとするカイゲン本国は、

かつての腐った王宮以上の「敵」に

他ならなかった。


「凄まじい熱気ですな……」


ラグナルが、漆黒の煙を吐き出し続ける

「新設第・三・鋳造所」の

巨大な熱炉を見上げながら呟いた。


そこは、王宮の地下深く、

かつて大霊樹の根が張っていた暗闇を

拡張して造られた、

王国最大の極秘軍需工廠だった。


カイゲンの技術者から

泥泥になって盗み出した精錬技術。

それにセルヴァ固有の魔導鉱石を

組み合わせ、

民の手によって24時間体制で

新たな「鉄」が叩き出されていた。


「人は、

 奪われることに対して最も激しく怒る」


リンは

赤々とした溶鉄の光を顔に浴びながら、

完成したばかりの異彩を放つ武具に触れた。


「『神聖なる清貧』を守るためには

 指一本動かさなかった民が、

 自分の飯の種を守るためには命を張る。

 これこそが、

 俺たちが手に入れた最強の兵器だ」


そこへ、汗と煤(すす)にまみれたガルド提督が、

不機嫌そうに大股で歩み寄ってきた。


「おい王子!

 呑気にスピーチしてる場合じゃねぇぞ!

 本国の『第三艦隊』が動き出した!

 旗艦

『カイザー・ヴェゼル』をはじめとする

 装甲砲艦二十隻が、

 ラグナ港の沖合三マイルに集結しつつある!」


「仕事が早いな、ヴィンセント特使も」


リンは笑った。


「本国の元老院どもは本気だぞ」と

ガルドは

葉巻を噛みちぎらんばかりの力で吐き捨てた。


「あいつらは

 ラグナ港を海上から完全封鎖し、

 アリストを兵糧攻めにする気だ。

 港から一歩も船を出させず、

 干上がったところでお前さんの首と、

 この鉱山の利権を

 丸ごと分捕る腹づもりだ。……

 海上戦じゃ、

 俺たちの私設艦隊(五隻)じゃ

 逆立ちしたって勝てねぇ」


「海上戦で戦う必要などないさ」


リンは短剣の柄で、

足元の魔素鋼のインゴットを

コンコンと叩いた。


「ガルド。カイゲンの装甲艦は、

 船体を強固にするために

 大量の鉄と魔導鉱石を使っているな?」


「当たり前だ。我が国の誇る超金剛鋼だ。

 木造船の砲撃なんざ蚊ほども効かねぇ」


「ならば、その『超金剛鋼』の原料が

 どこから来ているか、

 本国の元老院どもに思い出させてやろう」


リンは不敵に微笑むと、

ラグナルへ視線を向けた。


「ラグナル、

 例の『刺客』どもはどうなった?」


「はっ」


ラグナルが合図を出すと、

奥の暗がりから、

縄で縛られた数人の男たちが

引きずり出されてきた。

カイゲンの水兵服を着た、

暗殺と破壊工作を専門とする

本国の密偵(サボタージュ)たちだった。

今朝がた、

アリストの第一工廠の魔導炉に

毒を投げ込もうとしたところを、

元闇市の治安維持隊によって

取り押さえられたのだ。


「ひ、ひぃっ……! 殺さないでくれ!

 俺たちは命じられただけで――」


「殺しはしない」


リンは密偵の目の前でしゃがみ込み、

その胸元に一通の「密書」を叩きつけた。


「これを

 沖合に停泊している第三艦隊の司令官、

 そしてヴィンセント特使へ届けろ」


密偵が震える手で密書を開く。

そこに書かれていたのは、

リンのサインが押された

恐るべき「経済通告」だった。


『本日より、

カイゲン本国へ向かう

すべての魔素鋼および魔導鉱石の出荷を

永久に停止する。

同時に、

カイゲン艦隊がラグナ港の封鎖を

即座に解除しない場合、

アリストに駐留するカイゲン技師千名を

全員『国家人質』とし、

我が国の

鉱山施設をすべて自爆・封鎖する。

我が国は一年分の食料をすでに蓄えている。

干上がるのが先か、

自慢の艦隊が鉄不足で腐るのが先か、

勝負と決め込もうではないか』


密偵の顔が、恐怖で土気色に変わった。


「な……なんという無茶苦茶な……!

 こんなことをすれば、

 カイゲン本国との関係は

 完全に破滅するぞ!

 お前たちも無傷では済まないのだぞ!?」


「破滅? 結構じゃないか」


リンは密偵の顎(あご)を掴(つか)み上げ、

その瞳の奥に

狂気じみた泥臭い闘志を叩き込んだ。


「俺たちは元々、

何も持っていなかった『落ちこぼれ』だ。

綺麗事を抱いて死ぬくらいなら、

世界中を巻き込んで道連れにしてやる。

……さあ、走れ。

お前たちの偉そうな提督に、

この『泥の遺言』を届けてこい」


密密は悲鳴を上げながら、

解放された途端に這(は)うように

地下工廠(ちかこうしょう)を逃げ出していった。


「……ハッ! 狂ってやがる!」


そのやり取りを見ていたガルド提督が、

呆れ果てたように大爆笑した。


「海上封鎖に対して

『自国ごと自爆する』と脅し返すとはな!

 本国の元老院のインテリ貴族ども、

 今頃泡を吹いて倒れてるぜ!」


「脅しではない、本気だ」


リンは笠をかぶり直し、

工廠(こうしょう)の出口へ向かって歩き出した。


「相手が『力』でねじ伏せようとするなら、

こちらは『狂気と覚悟』でそれを上回る。

……ラグナル、

港の全砲台に

魔素鋼の新型砲弾を装填させろ。

海の支配者どもに、

泥の国の挨拶を叩き込んでやる」


陸の王宮を倒し、

泥の中から這い上がった王子リン。

海からの圧迫に対し、

彼は「国家そのものを人質に取る」という

破天荒な奇策で、

巨大国家カイゲンを更なる狂乱の渦へと

引きずり込もうとしていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

沖合三マイル。

黒鉄の装甲に包まれた

カイゲン本国第三艦隊の旗艦

『カイザー・ヴェゼル』の甲板上には、

冷たく重苦しい不穏な空気が立ち込めていた。


「バ、バカな……! 」


9/12、18:30 に、第3話を投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。