第47話
事務から『保証協会の方からお電話です』と告げられた電話を匠は緊張した面持ちで取る。
金額はいくらになっただろうか。
満額は難しかったとしても300万円くらいはないと厳しいが……。
「はい……お電話代わりました朝倉です」
と匠が電話口で告げると、聞き覚えのある担当者の声が聞こえる。
「あぁどうもどうも、先日はありがとうございました」
「いえこちらこそありがとうございました……それで……」
緊張のあまり匠の声が少し震える。
「いや……その……鎌蔵興業の融資の件ですが……まぁ……難しいという結論になりまして……」
「え……?」
「いやぁ……なんとか力になりたかったんですがね……残念です……」
予想外の言葉に匠は思考が鈍る。
「いや……待ってください!! ……え……ゼロってことですか……!?」
「えぇ……まぁ……そういうことになりますね……では……はい……失礼します……」
そう言って担当者は一方的に電話を切る。
『ツー、ツー』と鳴っている電話を耳に匠は茫然としたまま一点を見て固まっており、営業室にいる全員が何事かと匠を見ていた。
――――
少しした後、茫然とした面持ちのまま匠は支店長室へと向かう。
支店長室の扉をノックすると『どうぞ』と言われたので、匠は扉を開ける。
「おぉ朝倉か……どうした?」
よほど酷い顔をしていたのだろう、匠を見た支店長は少し怪訝そうな顔をした。
「……あの……鎌蔵興業の件ですが……」
今回の件については支店長には既に報告済みである。
「あぁ……協会に行ってきたんだろう? どうだった? 満額は厳しそうだったんだっけ?」
「…………ゼロ回答でした……」
そう匠が告げると支店長は一気に真剣な顔になる。
しばらく支店長室に沈黙が降りるが、少しの間の後匠はおずおずと口を開く。
「……あの……プロパーは……」
「……協会がゼロの先にプロパーできると思うか……?」
予想していた回答ではあるが、その言葉は匠の胸をえぐる。
苦しそうな表情の匠を見て支店長はため息をついた後口を開く。
「……その話社長には伝えたのか……?」
「……いえ……まだです……」
「少しでも早く伝えた方が良い……すぐに電話してきなさい……」
最後の最後まで支店長の口から何か良い発言が聞けないかと匠は淡く期待していたが、現実はそんな都合の良い展開にはならない。
「……はい……」
とだけ言うと匠は支店長室を出て営業室へと戻った。
――――
匠が営業室に戻ると営業課長が近寄ってきた。
さっきは営業室にいなかったので支店長に報告している間に戻ってきたのだろう。
「おい……大丈夫か……この世の終わりみたいな顔してるぞ……鎌蔵興業の件か?」
「……はい……ゼロ回答でした……」
「…………そうか……」
それで営業課長は全てを察したようだ。
「まだ社長には……?」
「これからです……」
「……そうか……嫌だろうが……それはお前の仕事だ……」
営業課長はそう言うと『ポン』と匠の肩を優しく叩き自分の席へと戻っていった。
匠は何度か深呼吸をすると受話器を持ち上げる。
電話帳を見ながら電話をかけること数コール。
「はい鎌蔵です」
そう言った鎌蔵社長の声は期待が含まれており、明るいものだった。
「あの……ふかしんの朝倉です……」
「お世話様です。協会から返事きたんですか?」
「……はい……」
そこまで言って匠は言いよどむ。
ちらっと営業課長を見るといきさつを見守るように匠を見つめていた。
匠はもう一度深呼吸をした後結果を告げる。
「……協会は融資はできないと……」
「え……」
「……すみません……」
「えっと……他に……何か借りられないんですか……?」
「……すみません……」
匠がそう言うと沈黙が訪れる。
「……話が違うじゃないですか……」
少しの間の後沈黙を破った鎌蔵社長の声はとても小さく、先ほどとは打って変わって全ての感情が欠落したかのような声だった。
「…………申し訳ないです……」
と匠がなんとか絞り出すように言うと、鎌蔵社長は再度感情の無い声で。
「……もういいです……」
とだけ小さく言って電話を切ったのだった。




