第45話
「……は……?」
朝匠が出勤した直後、鎌蔵社長からかかってきた電話の内容を匠はすぐには頭で理解できなかった。
「ですから! スクエアフォルムが破産したんですよ!」
鎌蔵社長の知り合いの建設業者がたまたま今日の朝スクエアフォルムを訪れた際それが発覚したようで、鎌蔵社長も連絡をもらい現地に見に行っているようだ。
スクエアフォルムの正面玄関には『告示書』と書かれた紙が1枚貼られており、そこには破産申立てを開始する内容が書かれており、知らされていなかった社員や関係業者の人々が立ち尽くしているようだ。
「ちくしょう! 社長には連絡が取れないみたいだし……!」
鎌蔵社長の声には怒りと焦りの色が含まれている。
「お……落ち着きましょう。一度会社で会えますか?」
「…………分かりました。これから戻ります」
確かに匠はスクエアフォルムに何かあったらという話はしていたが、それはずっと先の想定でまさかこんなすぐに起こるとは想像していなかった。
テレビCMを考えるくらい順調だったのではなかったのか……?
それとも実態の資金繰りは厳しかったがそう見えないように偽っていた……?
実情は分からないが、今匠が考えなくてはならないのは鎌蔵興業の今後だ。
……鎌蔵社長との会話を終え受話器を置いた匠の手はじっとりと汗ばんでいた。
――――
「ざっと1,200万円ってところですね……」
匠と鎌蔵社長は鎌蔵興業の事務所で落ち合うと、まずは経理を交えスクエアフォルムから今後入る予定だった売上金を計算した。
これからスクエアフォルムは財産の整理をし、債権額に応じて破産手続きを通じた配当という形で債権者に弁済をするが、配当が全く無い場合も珍しくなく、またあったとしても一部に留まることも少なくない。
それに仮に配当があったとしても入金までは少なくとも1年以上かかるだろう。
それまでにも職人であったり材料屋に支払いはしなくてはならないのでこの配当金は当てにならない。
『1,200万円という入ってくるはずだった売上が入ってこなくなった』
この重たい事実に匠は動揺するが、匠よりも鎌蔵社長の方がよほど辛いはずだと匠は努めて自分を落ち着ける。
鎌蔵興業の今後の支払いは今後2か月でおよそ600万円程で、預金口座には200万円ほどがある。
だが今後の売上は……スクエアフォルム以外にも取引は徐々に増やしていたとはいえ今後入ってくる予定は2か月で200万円程度しか無い。
これがいきなり今まで通りの売上になることはまずあり得ない。
事務所や資材置き場の家賃や事務所スタッフや職人への人件費等は今後も確実に発生するが、事業規模が大きくなっているのもあり現状の売上のままでは支払っていくのは厳しいだろう。
……だがここで考えていても何も事態は好転しない。
どうにか融資をして繋いでいるうちに取引先の拡大と取引量の増加をしていくしか道は無いように思えたので匠は鎌蔵社長にその旨を告げる。
「でも……現実的にその融資は受けられそうなんですか……?」
と鎌蔵社長が聞いてきた為、匠は少し考える。
「……そうですね……社長……直談判に行きましょう……」
と匠が言うと鎌蔵社長は『どこに?』とも聞かず、弱々しく頷いた。
――――
一度匠は支店に戻り支店長に簡単に現状を告げると、とある場所へ電話をし、その後駐車場へと向かい待っていた鎌蔵社長を乗せ営業車のハンドルを握る。
――向かう先は保証協会。
中小企業への融資を一定割合保証してくれる機関である。
普段であれば申込書を作成し郵送、または持ち込み結果を待つのだが、事が事だけに先ほど電話をし『担当者に直接会って相談したいことがある』と訪問約束を取り付けたのだ。
車の中では2人とも無言であった。
お互いに色々と考えなくてはならないことがあったためだが、考えれば考えるほどただただ今後への不安が沈黙と共に積もっていったのだった。




