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第44話

「今回も融資の実行ありがとうございます。今度お礼にまた飲みに行きましょうよ」


 そう言いながら頭を下げたのは型枠工事会社である鎌蔵興業かまくらこうぎょうの社長の鎌蔵かまくら 健登けんと

 日に焼けた顔と坊主頭ではあるが、目鼻立ちはしっかりとしており爽やかな印象を受ける。


 型枠工事とは流動的なコンクリートを流し込んで固める為の枠を作るものである。


 その作業にはミリ単位の精度が必要であり、またコンクリートを流し込んでも枠が変形してしまったり、枠が壊れてコンクリートが漏れ出す所謂『パンク』を起こさないよう、どのように強度を保つか等知識や経験が重要となる作業となる。 


 鎌蔵社長はまだ45歳と業界の中では若手ながらも、丁寧な仕事ぶりと豊富な人脈で納期をしっかりと守ることに尽力をしており、その仕事ぶりが評価され今マンション建設を中心に急成長をしているスクエアフォルムという会社から型枠工事を任されるようになり、鎌蔵興業もそれに引っ張られるように急成長をしている最中だ。


 急成長にはどうしても資金繰りの面で融資が必要となるが、前向きな融資な為何ら問題は無い。


 また鎌蔵社長はよく匠を接待へと誘ってくれる。

 その度仕事の話から子供の話まで色々と聞いているので、匠は割と鎌蔵社長に親近感を感じている。


「いえいえ業況も順調そうで何よりです」


 そう匠が言うと鎌蔵社長は嬉しそうに笑う。


「スクエアフォルムの社長からは『これからもどんどん仕事回すから頼む』って先日言われましてね、益々忙しくなりそうです」


 鎌蔵社長は心底嬉しそうにそう言うが、だからこそ……と匠は気を引き締める。


「それは素晴らしいことですが……以前から言っていますが他の会社からの仕事も増やすことも忘れずお願いします」


 匠のその言葉を聞いて鎌蔵社長は若干苦笑いをする。


「朝倉さんからそう言われてるので少しずつ営業をかけたりはしていますが……」


 言葉の通り鎌蔵社長はスクエアフォルム以外とも取引を徐々に増やしているが、未だ売上の7割超はスクエアフォルムからである。


「今は順調でも何があるか分かりませんから……現状ではスクエアフォルムに何かあったら共倒れになってしまいますので……」


「でもスクエアフォルムがすぐどうこうなるとは思えませんけどね……順調も順調で今度テレビCMも撮影するなんて言ってましたけどね」


 そう言われた匠は鎌蔵社長の目をしっかりと見る。


「それでもです。リスクは極力減らす必要がありますので」


「……それもそうですね……他ならぬ朝倉さんの助言ですからね……引き続き努力しますよ」


 そう言いながら鎌蔵社長はにこっと人懐っこい笑顔で笑う。


 鎌蔵社長は経営者としてもちろん一本芯はあるのだが、こういう助言等を素直に取り入れる柔軟さも持ち合わせている。

 こういう部分が今の急成長に繋がっているのだろうな……と匠が考えていると鎌蔵社長は思い出したとばかりに口を開く。


「そういえば以前朝倉さんが言っていた子供の保険の件、妻に話したら『是非』とのことでした」


「お、それはありがたいです。そうしましたら後日ご自宅に伺いますね」



――――



「そちらにお子様の体重をお願いします……はい……そうですねこれで大丈夫です。ではお預かりしますね」


 匠は鎌蔵社長の自宅にて鎌蔵社長の妻である鎌蔵かまくら れいから医療保険とがん保険の申込書や告知書を預かると早速タブレットに入力をする。


 2人には6歳と8歳の子供が2人いるので計4件分の契約となりかなりありがたい。


「ご契約本当にありがとうございます」


「いえいえ……夫の話を聞いて『早めに入ったほうが良い』というのも確かにと思ったので」


 医療保険やがん保険については基本健康状態の告知が必要となるが、一度何か大きな病気等すると加入がかなり難しくなる。病歴があっても入れる保険もあるがもちろん通常のものに比べ割高だ。


 また掛け捨ての保険の場合保険料は加入時の金額で一生涯変わらない。

 もちろん年々その保険料は上がるので、加入時の年齢が若ければ若いほど月々の保険料は安くなる。


 そういったこともあり、月々の保険料が安く、かつ入れるうちにこういった保険に加入しておいてあげておくのも親から子供への立派なプレゼントだと匠は考えている。


 匠がタブレットに入力を終え、零からサインをもらい帰り支度をしていると、零は意を決したように口を開く。


「あの……実は別件で相談がありまして……お時間大丈夫でしょうか」


「えぇ……大丈夫ですが……」


「あの……私今ネイルサロンで10年ほど勤めているんですが……そろそろ独立を、と考えていまして……」


 なるほど……と匠は思う。


「創業資金はどの程度必要になりそうですか? あと立地はどうされるんですか?」


「色々計算したんですが200万円ほど必要そうなんですよね……立地は実は駅前のテナントで一軒空きそうという噂の所があってそこを狙っているんですが……」


「そうしますと取られる前に物件のオーナーに話をして抑えたいですね……とりあえず客単価から売上を出しつつ経費等を洗い出して事業計画を作りましょう」


 こうして匠と零は数日かけて一緒に事業計画を練り、創業融資を実行し数か月後に開業へと至った。


 零のネイルサロンは零自体に固定客がついていたこともあり滑り出しは上々である。


 鎌蔵興業も飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているし、ネイルサロンも今のところ順調で子供も無事保険に加入ができた。


 匠には鎌蔵家関係に関しては全てが上手くいっているように感じていた。


 ――今この時までは。

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