第39話
匠は改札前にしばらく立ち尽くした後、芽依に言われた『私は朝倉さん良いと思いますよ?』という言葉を頭の中で反芻しながら帰宅する。
匠が自虐をしたからフォローしてくれたのだろうか……。
それとも取引先ということもあり、お世辞を言ったのだろうか……。
はたまた『一般論的に見て悪くない』ということを伝えようとしてくれたのだろうか……。
あるいは……。
そうぐるぐると頭の中で考えながら家に着くと、祥子と陽はまだ飲んでいるようだった。
「ただいま……」
「お、随分と遅かったじゃん。いちゃついてたの?」
「んなわけないでしょ……」
匠がそう不機嫌そうに言うと祥子はケラケラと笑った。
先程の言葉の真意は考えていても分からなそうなので、匠も飲み直そうと席に座るとコップに日本酒を注ぐ。
「……まぁでも芽依ちゃん良い子じゃんね?」
「それは……そうね……」
そう言いながら匠が日本酒を口に入れると――。
「好きなん?」
「ごほっ!!」
祥子の発言に思わず匠がむせ返ると、その様子を見た祥子は心底楽しそうに笑う。
「……あんまりからかうと可哀想だよ……」
見かねた陽がやんわりとそう言うと祥子は『すみませ〜ん』と素直に謝った。
「でも気になるじゃん? からかうとかじゃなく実際のとこどう思ってるん?」
そう言われて匠は考える。
「……そりゃ美人だし……仕事もできるし……いつも穏やかで……喋ってると楽しいし……人として好ましいけど……」
「……けど?」
「……好き……とかは正直よく分からない……自分なんかじゃ釣り合わないし……」
それを聞いた祥子は『う〜わ』と言った後、やれやれといった感じでため息をつく。
「釣り合うとか釣り合わないとかそれは芽依ちゃんが決めることじゃない?」
そう言われた匠は頭をガツンと殴られた様な衝撃を受ける。
確かに2人の関係性を『釣り合っていないから』と一方的に決めつけるのは相手に失礼なことだ。
匠は以前の小佐野家を思い出す。
誠が由香里との関係性を『釣り合っていないから』と勝手に決めつけて、相手の気持ちを知ろうともしなかった結果を見たではないか……と。
そして再度先程の芽依の言葉を思い出す。
『私は朝倉さん良いと思いますよ?』という言葉は真意こそ不明だが、それがフォローでも、お世辞や一般論的な意味であったとしても、好意であることは間違いない。
好意を受け取っておきながら……それを享受しておきながら、自分の気持ちに蓋をし目を逸らしているのでは、大学生の時と同じ過ちを繰り返しているのではないか……と気付く。
あの時と同じ過ちを繰り返さないためにも、ここで一度きちんと自分の気持ちと向き合う必要があるのかもしれない、と匠は思う。
「……そう……だね……1回ちゃんと考えてみたいと思う……」
と匠が言うと祥子はうんうんと頷く。
「まぁ……とりあえず今はそれで良いんじゃない?」
と祥子は言った後。
「しっかし……我が弟ながら……なんだかなぁ……」
と言いながら盛大にため息をついたのだった。




