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第37話

「いたっ……! 痛い……! これどうすれば良いんですか!?」


「F3を押すと回復するので押してください!」


「F3ってどこでしたっけ!?」


 匠の部屋に移動した後、パソコンでゲームを立ち上げると久しぶりの起動だった為そこそこの量のアップデートが入った。


 完了までの間芽依はそわそわと匠の部屋を見回していたが、シングルのベッドの横に机とパソコンがあり、反対側に腰の高さくらいの箪笥とその上にテレビがあり、その横にウォークインクローゼットがある、といった程度の特筆するようなものも無い普通の部屋である。


 匠は匠で自分の部屋に女性と2人きりというシチュエーションに内心そわそわしており、早くアップロードが終わらないかとやきもきしていた。


 待つこと数分アップデートの完了通知が入った為ログインすると、芽依が『やってみたい』と言い出したので匠が新規でキャラクターを適当に作成し交代した。


 芽依はゲーム自体あまり慣れていない様子だったが、どうにかこうにかチュートリアルを終わらせそのまま最初の街を軽く観光した後、街の外に出てみたところでいきなり狼のようなモンスターに襲われ今に至る。


「左手の中指の上の方です!」


 そう言っている間にもキャラクターのHPゲージは徐々に削られていく。


「えっと……えっと……えい……!」


 芽依がなんとか狼から距離を取ろうと動き回りながらF3キーを押すとキャラクターの周りに緑の回復エフェクトが発生し、少しずつHPゲージが回復していく。


「あ! できました!」


「ナイスです! 装備も無いので一旦逃げましょう!」


「分かりました!」


 と芽依が急いでマウスを動かし視点を反転させ、狼から逃げようと前進ボタンを押した瞬間。


「「あ……」」


 目の前には地面が無く、あったのは――崖。


 既に前進を押してしまっている為操作は間に合わず、回復エフェクトをまとったままキャラクターは崖の下に落ち、そのまま落下ダメージによって死亡した。


 匠と芽依は目を合わせると少しの間の後。


「「あははははははは!」」


 と笑いあう。


「か……回復しながら落ちていった……!」


「わ……私……! 『分かりました!』とか勇ましく言ったのに……! 直後に……!」


 絶妙なタイミングで落ちたことがお酒の入った2人のツボに入ったようでしばらくの間2人は笑い続けた。


 ひとしきり笑った後、匠が『続けます?』と聞くと、芽依は『もう満足です』と言ったので匠がパソコンを落としていると、芽依は何かに気付いたようだ。


「その……ベッドの下のケースは何ですか……?」


 そう言った芽依の視線の先には衣装ケースがあった。


 『あぁ……』と言いながら匠がケースをベッドの下から引き出し蓋を開ける。


「漫画ですとか……小説ですとか……まぁ本ですね」


「……これは……卒業アルバムですか?」


 そう言った芽依が指をさしているのは一際大きい本。


「そうですね。小学校と中学校の時のやつですね。高校の時のは引越しの時に見つけられなくて……多分実家のどこかにはあると思うんですが……」


 それを聞いた芽依は少し伺うように匠を見る。その視線を受け匠が小学校の卒業アルバムを『どうぞ』と芽依に差し出すと、芽依は嬉しそうにそれを受け取った。


 『失礼します』と言いながら芽依はアルバムを開き、ペラペラとページを捲るがなかなか見つけられない様子だったので、匠も隣に移動し覗き込む。


「あ、これ私ですね」


 と匠が写真を指差すと、芽依は意外そうな声を出す。


「へぇ~……小さい頃は眼鏡だったんですね……」


「そうですね……高校までは眼鏡でした……」


「そうなんですか……大学デビュー的な感じですか?」


 と言われ匠は少し考える。


「そう……ですね……はたから見たらそう見えるかもしれませんが……実際は姉と一緒に住むってなった時に『糞ダサい弟と一緒に住んでると思われたくない』と言われまして……一緒に服を買いに行ったり、姉が通っている美容院を紹介されたりと……その一環でコンタクトレンズにしたんです」


「はぁ~……お姉さんいて良かったですね……」


「ま……まぁそうですね……」


 実際高校生までの匠はお洒落に興味は無く、漫画やゲームが趣味の所謂オタク系であったので祥子のおかげで垢抜けた自覚はあるが、その過程でやれ『何その髪ヘルメットでもかぶってんの?』『まじできしょいからシャツをズボンに入れんの本当に辞めて』等あまりにもストレートに罵倒された心の傷が未だに残っているので、あまり素直に認めたく無い部分もあったりする。


「お洒落ですし……話しやすいですし……英語も喋れて……自慢のお姉さんですね……」


 と言われ、匠は面白くないものを感じつつも。


「……ですかね……」


 と渋々と答えたのだった。

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