第30話
「あ~……パサパサしているのに何故か美味しく感じる……これぞお祭って味ですねぇ……」
飲食用に公園に用意されていた席に横並びに座り、焼きそばを一口食べた芽依はうんうんと頷きながらそう言った。
匠もたこ焼きの入ったパックを開け、爪楊枝で刺し一口食べる。
「ですね……普段なら美味しいとは思わないと思うんですけど、お祭りで食べると不思議と美味しく感じるのありますよね」
「食事は雰囲気も大事ってことですね」
「あとは誰と食べるかとかもですかね?」
匠がそう言うと芽依は『確かにそうですね』と頷くと、何かを思い出したような素振りを見せた後口を開く。
「そういえば決算書ですが今週末くらいには税務署に提出できそうみたいです」
「お……良かったですね」
前に匠と芽依が『Bar Deepest Snow』で食事をした際に、芽依は匠に『飲食店を巡るのに付き合って欲しい』という話をしたものの、その後花岡事務所の決算処理が佳境に入り芽依の余裕が無くなったので『決算処理が終わって落ち着いたら行こう』という話になっていたのだ。
「このお店とかどうですか?」
と言いながら芽依はスマホを操作し、お店のホームページを表示する。
匠が画面を見ようと顔を近付けると、2人で覗き込む形になり不意にお互いの顔が近くなる。
芽依から甘い良い匂いが香り、匠の鼓動は少し早くなるが努めて冷静さを保つ。
「い……良いんじゃないですか……?」
匠がそう言った瞬間――。
「お、匠みっけ」
と言われ匠が顔を上げると、1人の女性が立っていた。
セミロングほどの長さの髪は明るい茶色に染まっており、メイクも服もやや派手ながらばっちりとまとまっており、表現するならきれいめ大人ギャルコーデといったところだろうか。
「げ……なんでいるの……?」
そう言われた女性は肩をすくめる。
「『げ』は酷くない? 昼前に起きて~、んでホームページ見たらふかしん連が2時から踊るってなってたから、じゃあ冷やかしがてらお祭り行く? みたいな話になって」
そう言った人物の後ろを見ると1人の男性が立っていた。
上下黒の服装だが、焼けた肌とすらりとした体型のおかげか様になっている。
男性は匠と目が合うと軽く手を上げる。
匠が芽依を見ると何事かと視線を彷徨わせていた。
『紹介しないわけにもいかないよな……』と匠は一つため息をつく。
「えっと……姉とその彼氏です……」
匠の姉である朝倉 祥子。
学生時代は所謂ギャル系ファッションと文化を好んでいたが、決して勉強ができないという訳では無く、学校での成績はそれなりだったらしい。
特に英語は得意で会話も難無くできるので、それを生かして外国客の多いホテルのフロントで現在は働いている。
社会人になってからは大分落ち着いたが、それでも見た目はやや派手よりなので、性分なのだろう。
そしてその彼氏である拝島 陽。
普段は居酒屋のアルバイトをしつつ、アマチュアバンドでドラムを担当している夢追い人だ。
匠は一度姉に誘われライブハウスに見に行ったことがあるが、両足を使ったドラムは迫力があったし、割と観客が入っていることに驚いたものだ。
ちょこちょこ家に来るので匠と陽はそれなりに喋るくらいの関係ではある。
『バンドマン』というと匠は所謂陽キャのイメージを持っていたが、話してみると陽は意外に真面目で、かつそんなに口数も多くないタイプだった。
ちなみに昨日も夜家に来て、遅くまで祥子と陽は飲んでいたようだ。
陽の両手には食べ物が入ったビニール袋が握られていたので、匠達の踊りを見る前に昼食を食べようと公園に立ち寄ったのだろう。
紹介された芽依はサッと立ち上がるが、いきなりのことでやや困惑している様子である。
「えっと……朝倉さんにはいつもお世話になっております……取引先の藤森と申しまして……えっと……すみません今日は名刺を持ってきていなくて……」
としどろもどろになっている芽依を見て『かわよ』と祥子は呟いた後。
「いいよいいよ堅苦しいのは。匠の姉の祥子です。んで、こっちが彼氏の陽ね。で、座って良いっしょ?」
と笑顔で聞いた後、匠達の返事を聞く前におもむろに対面に座ったので、それを見ていた陽も申し訳なさそうに軽く頭を下げた後、祥子の隣に座った。




