第29話
「あ! すみません!」
屋台の近くまで来たところで、匠は無意識に芽依の右手を握っていたことに気付き、急いでパッと手を放す。
「本当にすみません……つい咄嗟に……」
と匠が申し訳なさそうに言うと、芽依は匠が握っていた所を一瞥した後、笑顔で。
「いえ……ちょっとびっくりしましたけど……気にしないでください……」
と言ったので、少しだけ匠は安心するが、徐々に現実を認識し始めると『やってしまった……』と思う。
いきなり芽依の手を握ったこと自体もそうだし、その前の芽依とのやり取りや手を握るところを他の職員に見られてしまったこともだ……。
『これはまずいことになった……』と匠が渋い顔をしていると、その様子を見ていた芽依がくすくすと笑う。
「本当に大丈夫ですので……それよりお腹が空いたので早く見に行きません?」
そう言われ匠は前を見る。
駅前広場から続く駅前のメイン通りは中央は踊れるように車両は通行止めとなっており、左右の歩道には様々な屋台が300メートル程連なっていた。
ふかしん連は駅前広場から出発し、この屋台が切れる辺りまで進んだ後折り返し、駅前広場に戻ってゴールというコースだったので、匠は屋台の前を2度通ってはいるが、いかんせん踊りながらなのでほとんどちゃんとは見れていない。
改めて見ると焼きそばやお好み焼きといった定番の食べ物の屋台や、射的やスーパーボールすくい等の遊戯系の屋台、そして行き交う大量の人々が目に入る。
お祭り特有の雰囲気を目の当たりにし、匠は先ほどまでの気持ちはどこかへ行ってしまうほど高揚感を感じた。
「そうですね……! 行きましょう……!」
そう言って先程までとは打って変わってうきうきと歩き出した匠を見て、芽依もまた笑顔で歩き出す。
――――
「お祭りって凄い久々に来ましたね……中学生とか以来かもしれません」
そう言った芽依の手には焼きそばとフランクフルトが入ったビニール袋が握られている。
「確かに……私も今でこそ仕事で毎年参加していますが……『個人的に』となるとかなり前ですね……」
そう言った匠の手にはたこ焼きとからあげが入ったビニール袋が握られていた。
既に2人は食べたい物を購入済みで、マップを見ると駅前のメイン通りから一本外れた公園に飲食用のテーブルとイスが用意されているようなので、そちらに向かっている途中である。
「これとかって私達が子供の頃って無かったですよね?」
そう言った芽依が見つめる先の屋台には電球の形をしたボトルに入ったジュースが並んでいた。ボトルにはストラップがついていて首から下げられるようだ。
先ほどすれ違った子供が持っていたが、どうやらスイッチで色々なパターンに光るらしい。
「いやぁ……見た覚え無いですね……」
「ですよねぇ……」
と話しながら更に進むと、少し先に奇妙な人形が所狭しと並んだ屋台が目に入る。
なんとも言えない……何かと何かが融合したような人形達で、リアルタッチなサメから足が生えていたりワニと飛行機が合体していたりと大分カオスである。
「えぇぇ……なんですかあれ……」
そう言った芽依は大分困惑しているようだ。
「あぁ……なんかAIが作ったキャラクターで『ミーム?』とかって言うそうですよ」
そう匠が言うと芽依は匠が知っていたことが意外だったようで、更に困惑の色が深くなる。
「く……詳しいんですね……」
「あ……いえ……集金先にいる幼稚園児が教えてくれました……」
少し前に匠が小佐野家に集金に訪れた際、駿太郎が熱心に説明してくれたのだ。
正直匠には奇妙なキャラクターにしか見えないが、世界的に流行しており、日本でも幼稚園児や小学生を中心に爆発的な人気があるらしい。
曰く各々のキャラクターにイタリア語で名前が付けられているらしく、これをどれだけ言えるかを幼稚園で競っているそうだ。
そう説明を受けても芽依は『何が良いのか理解できない』といった表情を浮かべている。
「……分からない世界ですね……」
「大丈夫です……説明した私も正直分かっていません……」
お互い思わず苦笑しながら顔を見合わせた後、2人は引き続き会話と祭りの雰囲気を楽しみながら公園へと向かって歩を進めたのだった。




