第26話
少し空気が悪くなってしまったのを感じつつ、どうしようかと匠が考えた瞬間。
――奏を挟んで奥にあるガラス面がぱぁっと明るくなり、音楽が始まる。
何事かと2人で顔を見合わせた後外を見ると、どうやら反対側の建物の壁面でプロジェクションマッピングが始まったようだ。
色鮮やかな花が次々と咲いたと思ったら、鹿や兎等の動物が出ては消えるを繰り返す。
それが終わったと思ったら今度は花火が打ち上げられる映像へと変わり、少しすると今度は水面に様々な大きさの魚が泳ぐ映像へと目まぐるしく変わっていく。
音楽だけで無く映像に合わせて音も鳴っており、まさに『光と音で作る芸術』といった感じだ。
「凄いですね!」
音楽に負けないよう少し声を張りながら、そう言いつつ振り向いた奏はすっかりいつもの笑顔だったので、匠は安堵する。
「えぇ……! 本当に綺麗ですね!」
と匠も少しだけ声を張りながらそう言うと、奏は再度外を見始めた。
匠がプロジェクションマッピングを見ている奏の後姿をチラッと見ると、音楽に合わせて少し揺れていて、なんとなく微笑ましいものを感じる。
およそ10分ほどだろうか、プロジェクションマッピングが終わると外は先ほどまでが嘘だったかのように静かな夜景へと戻っていった。
匠が目線を外から奏へと動かすと、奏と目が合う。
匠と目が合った奏はニヤッと笑うと。
「ちなみにプロジェクションマッピングと私どっちが綺麗です?」
と突然聞いてきたので匠は困惑する。
「いきなりなんですか……」
「先ほどの仕返しです」
どうやらさっきのお嬢様発言をまだ根に持っていたようだ。
発言通り奏は悪戯っ子のようにニヤニヤとした笑みを浮かべている。
答えにくい質問でどぎまぎする匠を見て楽しむことで、先ほどの留飲を下げてやろう、ということなのだろう。
思わず匠が『こ……こども……』と口にすると、奏が不機嫌そうに匠の二の腕を軽く叩いてきたので、返事を考える。
思惑通り匠がどぎまぎしながら『ノーコメントで……』とでも答えれば奏は満足するのだろうが、何となく面白くないものを感じたので匠は一つ咳ばらいをしてから奏を見つめる。
「比べるまでもなく……花岡さんの方が綺麗ですよ」
決して嘘ではなく、匠は本心を敢えて正面からぶつけることを選択したが、言った後に『周りから見たらただのバカップルだな……』と思うと途端に恥ずかしさを感じるものの、匠は特に何も気にしない風を装うが、心臓はバクバクと脈打っていた。
言われた奏は驚きのあまり固まっていたが、数秒後みるみるうちに顔を真っ赤に染めると、両手で顔を覆いながら下を向く。
「ちょ……ちょっと……想定外の答えは……その……ダメです……反則です……」
「……すみません……」
奏のボブヘアーから覗く耳は真っ赤に染まっており『以前にもこんなことあったな……』と匠が考えていると。
「いえ……まぁ……反則ではありますが……気分は良いので……許します……」
そう言いながら奏は顔から手を離すと姿勢を正す。
その表情はまだ赤く染まっていたものの、嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
奏はメニューに手を伸ばし開くと少し迷った様子の後にバーテンダーに注文をした。
匠は奏が注文したドリンクがオリジナルカクテルだったことに驚く。
「大丈夫なんですか?」
と匠が聞くと奏はこくんと頷く。
「……勇気を出す練習です……」
そう言った奏は真剣な顔をしており、思わず匠は感心する。
「凄いじゃないですか……ちょっと尊敬しちゃいます」
と匠が言うと奏はへらっと笑いながら。
「美味しくなかったら朝倉さんお願いします」
と言ったので匠は苦笑しつつ『分かりました』と言いながら、先ほどの発言を胸の中で静かに撤回したのだった。




