第23話
匠がソファーに座り壁にかけられてある時計を見ると17時35分を示していた。
ビュッフェが18時からなので集合は17時50分。
匠は集合時間の15分前に着いたことになる。
匠が今座っているのは都内の有名な高級ホテルのフロントに置かれているソファーだ。
周りを見渡すとキラキラと豪華な内装に、ぴしっと制服を着てキビキビと動いているスタッフ、そして明らかに日本人では無い国々の人々がおり様々な言語が飛び交っていて、何か普段とは違う異文化に迷い込んだような感覚となる。
高級ホテルということで匠はドレスコードを意識して黒のパンツにネイビーのジャケットで中にはグレーのシャツを着ている。
匠の大学生時代に姉が『糞ダサい弟と一緒に住んでると思われたくない』と言い出し、一緒に駅ビルのファッションブランドに行き買い揃えたコーディネートのうちの1つだ。
匠自身自分1人でそういうお店に行く勇気は無いので、こういう時に着れる服が揃ったのは助かったのは助かったし感謝もしているが、もう少し他に言い方は無かったのか、とは思う。
そんな事を考えていると見慣れた女性が入り口からフロントに入ってくるのが見える。
チラリと時計を見ると17時40分で待ち合わせの10分前だ。
匠が軽く手を振ると気付いたようで笑顔になった後、早歩きで近づいてきた。
「すみません、お待たせしました」
「あ、いえ私も今来たところなので」
と匠は『なんともテンプレートなやり取りだな』と思いつつ近くまで来た奏を見る。
今日の奏は首周りから肩の辺りまでだけレースになっている、深いグリーンのドレスに黒のフォーマルバッグ。
決して派手さは無いがドレスに着られている感は無く、しっかりと着こなしている様はシンプルに優雅さを感じる。
「今日のドレスシンプルですけど優雅な感じで……似合ってます……」
と匠が思ったことをそのまま口に出すと、奏は驚いたようで2度3度瞬きをする。
「……まさか朝倉さんが女性の服装を褒めるとは思いませんでした……」
「私を何だと思ってるんですか……」
匠が呆れ気味にそう言うと奏は苦笑する。
「だっていつもは何も言わないじゃないですか……?」
「いつもはその……仕事ですので……口にはしませんよ……」
その実匠はまともな女性との交際経験は無いものの、姉から色々と仕込まれている。
やれ女性と会ったら服装を褒めろ、やら。
やれ女性の変化には敏感に気付けるように観察しろ、やら。
やれ一緒に歩く時は速度を合わせつつ車道側を歩け、やら。
やれ女性が重い荷物を持っていたらさり気なく持て、やら。
都度言われてきたので、基本の基くらいは弁えているのだ。
匠の発言を聞いた奏は少しいたずらっ子の表情を見せる。
「その言い方ですといつもは口にはしていないものの、感想は思い浮かべているってことですよね……?」
そう言われ匠は『しまった』と思うが既に後の祭りである。
「……ノーコメントで……」
と匠が言うと奏は『あはは』と笑う。
「それもう認めてるようなもんじゃないですか……普段から感想言ってくれても良いんですよ?」
そう言った奏の口元はニヤニヤとしてものが浮かんでいる。
「いやいや……取引先の担当者の服装の感想述べるのは流石におかしくないですか……?」
と匠が言うと奏は少し考える素振りをした後『確かにそれもそうですね』納得したようだ。
「じゃあそろそろ行きましょうか」
という奏の言葉を機に2人でエレベーターへと向かった。




