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第19話

「本当に何時も何時もありがとうございます……」 


 とあるマンションの一室、個人宅の集金の時は普通大体玄関で済ますことが多いが、今匠は部屋に上がりダイニングの椅子に座っている。

 そしてそう言った匠の前には白米と味噌汁に加えウインナーと玉子焼きが置かれていた。


「いえいえ3人分も4人分も大して変わらないですし、簡単な物だけなので」

 

 そう言って笑ったのは小佐野おさの 由香里ゆかり


 彼女は先日30歳の誕生日を迎えているが、見た目は20歳と言われても違和感がないくらいに若々しく、また芸能人と言われても納得する程の美貌を兼ね備えている。


 匠も口には出さないものの、たまにテレビで見るハーフのタレントに似ているなと思っていたりする。


 小佐野家は集金先で毎月15日の朝一に訪問する約束だが、以前匠が『朝ご飯の準備が面倒で食べずに出勤している』と話してからは何故か毎回集金時に朝ご飯を準備してくれるようになった。


 匠は申し訳なさを感じつつも、既に用意されているご飯を断るのもどうかと思い好意に甘えている。

 実際に誰かの手料理を食べる機会が無い匠には、月1回の由香里の作った温かい朝ご飯はどうしようもなく抗えない程に魅惑的なのだ。


 また由香里曰く『夫も子供も料理の感想を言ってくれないので、朝倉さんが美味しいと言いながら食べるのを見るのが嬉しい』とのことらしい。


 彼女の夫である小佐野おさの まことは市内で『小佐野クリニック』という内科クリニックを自営している。


 匠の担当エリア内なので何度か挨拶に伺ったことはあるが、仕事が忙しいようで本人に直接会えた事は無い。

 ただ業況は毎月個人で40万円積立をしていることからも、相当良いのだろうと匠は推測している。


「美味しかったです。ご馳走様でした」


 と匠が言うと、由香里は嬉しそうに『なら良かったです』と言いながら食器を片付けようとしたので、匠が『いえいえ自分でやります』と食器をシンクに運ぶと、カウンターキッチンの先から廊下のドアが開くのが見える。


 ドアから出てきたのは小佐野おさの 駿太郎しゅんたろう


 由香里と誠の子供で、今年6歳で幼稚園の年長になったそうだ。


 医者の子供らしく英才教育を受けているようで、水泳·サッカー·英会話·習字·そろばん·ピアノと週6日習い事をしていると聞いた時は匠は驚きを隠せなかった。


 普段は幼稚園に行っている時間だが、夏休みや冬休みの期間であったり、イベントの振替等でたまに休日と集金日が重なるので匠は何度か会ったことがある。


 駿太郎は『しゅくだいおわった〜』と言いながらダイニングに来ると、匠に気付いたようで姿勢を正し『おはようございます』と丁寧に匠に頭を下げた。


 匠も頭を下げながら『お……おはようございます……』と返すが、その6歳の子供とは思えない異様とも思える駿太郎の礼儀正しさに匠は毎回驚く。


 素晴らしい教育の賜物なのだろうとは思うが、匠には1つだけ懸念している事があった。


 ……駿太郎の笑顔を見たことが無いのだ。


 いつ見ても真顔であり、良く言えば大人びているが、悪く言えば子供らしい無邪気さが無く、どことなく影があるようにすらも感じるのだ。


 以前由香里は『色々あって小学校受験は辞めました』と言っていたが、見えない所で色々と苦労もあるのだろう。


 そもそも匠には週6の習い事も異常に感じるが、他人の家の教育方針に口を出す権利は無い。


 駿太郎は匠の近くまで来ると『あっ』と1つ思い出したようで。


「まえにね、ようちえんで『ぎんこうさんいえにきてるよ』っていったら『ぎんこうはくるんじゃなくていくとこだよ!』っていわれちゃった……」


 としょんぼりと言ったので、匠はどうフォローするべきか悩むが結局良い言葉が見つからず。


「来てるんだけどねぇ……?」


 と匠が言うと。


「ね?」


 と駿太郎は返した。

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