第17話
『Bar Deepest Snow』と書かれた看板を前に匠は絶望感を覚えるが『奏と最近来たばかりだから他が良い』とはまさか言えるはずもなく、意気揚々とお店に入っていく芽依の後ろを渋々と付いていく。
『いらっしゃいませ』と言った店長は匠と目が合うと匠とその前にいる芽依を交互に見た後、カウンターから出て匠のところまで早歩きで来たかと思ったら小声で。
「マジっすか朝倉さん!? マジでやってますね!?」
と言ってきたので、匠も小声で。
「ほんっとうに違うんです……!」
と返すが、やはり店長は全く信じていないようだ。
「で!? どっちが本命なんすか!?」
「本当に話を聞かないですね!?」
「いやいや……朝倉さんがこんな肉食だとは……あ、でもうちの店で修羅場とかは勘弁っすよ?」
そうニヤニヤと笑って言った後、店長は匠の背中をポンポンと軽く2回叩くと『次の集金の時に詳しくお願いしゃす』と言いながらカウンターに戻っていく。
こうなる事が分かっていたので他の店が良かったのだが……と思いながら匠が芽依を見ると、芽依はぽかんとした表情で見ていたので『え〜っと……』と匠が説明しようとすると――。
「こちらの席どうぞ〜」
と店長が言ったため、2人はとりあえず席に着くことにした。
――――
「あ、集金先なんですね?」
「ですです。なんでまぁ……勘違いされてしまったと言いますか……」
席に着き、注文したご飯をお酒片手に食べながら匠が先程の店長とのやりとりについて説明すると芽依は納得したようだ。
「確かにこの雰囲気のお店に男女2人で来たらそうだと思いますよね」
と芽依に言われ匠が落ち着いた照明とBGMが流れている店内を見渡すと、客のほとんどが若い男女のペアで恐らくカップルかその手前ばかりだろう。
「すみません私が来たいなんて言ったばかりに……」
そう芽依が少し申し訳なさそうに言ったので匠は慌てて口を開く。
「いえいえ! 誤解は後で解いときますので! その……誘っていただいて嬉しかったですし! なんの問題も無いです!」
と匠が早口に言うと、芽依は少し笑い『だったら良かったです』と口にした。
ここまでやり取りをした後、匠はハッと気付く。
「あの……『誤解』で気付きましたが……もう既に今更な気もしますが……大丈夫なんですか……? その……彼氏さんとか……」
『芽依が雰囲気のあるバーに男性と2人でいるところを芽依の彼氏やその知り合いに見られたら言い訳できないのではないか』と本当に何故最初にそこに思い至らなかったのかと自分を恥ずかしく思いながら匠がそう尋ねると。
「あぁ……大丈夫ですよ。もう別れたので……」
と芽依がそう言ったので匠は少し驚く。
以前のやり取りがあったので何となく彼氏と上手くいってないんだろうなとは思っていたが、まさか既に別れているとは思わなかった。
芽依の様子から酷い別れ方をしたとかでは無さそうだが、それでもなんと言ったら良いか分からず。
「そうなんですね……」
と言った匠を芽依は少し見つめた後。
「……ちょっと話を聞いてもらえます?」
と言いながらにっこりと笑った後『すみません』と店長に2人分のお酒のおかわりを注文した。




