第16話
夜19時。
深森信用金庫の支店の総合職全員で何時ものように裏口から出た後、営業課長が警備会社の端末にカードをタッチし施錠する。
問題なく施錠されたことを確認し全員で『お疲れ様でした』と言った後、全員が駅に向かう為何となく塊でぞろぞろと歩き出すので、匠も集団の後ろから付いていく。
前を見ると同僚と会話をしている者もいれば、スマホの通知を確認している人もいる。
匠も何となくスマホを取り出し電源ボタンを押すと『今日は帰らないからよろしく』と姉からのメッセージが入っていた。
『恐らく彼氏の家にでも泊まるのだろう』と匠は推測し、1人で家で食べるのも何となく味気なく感じた為、今日は久しぶりに外食しようかと検討する。
確か駅の近くにお客様が美味しいと言っていたカレー屋があったはずだ。
そんなことを考えること5分。駅が近づいてきたので、匠が同僚達に後ろから『すみません今日は食べて帰るので』と声をかけると、何人かが振り返り『お疲れ』と言ったので、匠は軽く手を上げ『お疲れさまです』と返しその場で止まる。
集団が駅の構内に吸い込まれたのを見届けた後、匠がカレー屋へ向かおうと振り返ると1人の女性が立っていた。
「あれ……? 藤森さん……?」
「……こんばんは」
そう言った芽依は少しはにかむように眉を下げながら続ける。
「実は皆さんがお店を出た時からずっと後ろにいたのですが、どう声をかけて良いか迷ってしまって……」
「そうなんですか? 普通に声かけて……いやまぁ気まずいですよね……」
話しつつ匠も芽依と同じ状況なら躊躇するかもな、と思い直す。
「というか随分と遅いんですね? 何時もは大体定時って仰って無かったですか?」
匠が湧き上がった疑問を口にすると、芽依は困ったような表情になり。
「普段は定時なんですが今月決算なので流石に……」
と答えたので『あぁ……』と匠は返す。
決算月を迎えると法人であれば決算書を作らなくてはならない。
1年分の収入やら経費やら資産やらをまとめ上げ、2ヶ月以内に税務署に提出しなくてはならないので、どの会社の経理も決算月の前後は大変そうだ。
「『食べて帰る』って仰ってましたけど、朝倉さんはこの後外食ですか?」
と芽依に聞かれ匠は頷く。
「えぇ、姉も今日は外泊みたいですしたまには良いかなと」
匠がそう言うと芽依は少し考えた後。
「……あの……実はテレビの特集で見て気になってたお店がありまして……ただ女性1人ではちょっと行きづらい雰囲気というか……」
と言われ、匠は少し間を置いてから自分が食事に誘われていることに気付く。
「……え? あ!? ……えっと……? ……良いんですか?」
と匠がしどろもどろにそう言うと、芽依はくしゃりと笑顔になりくすくすと笑いながら『えぇもちろんです』と答えた。
――――
芽依がスマホを頼りに案内してくれている後ろを匠は少しそわそわしながら付いていっていたが、次第にそのそわそわの理由は変わっていった。
芽依が駅の反対側に行ったと思ったら、更に1つ路地裏に入っていくからだ。
その最近見覚えのある路地に匠は違っていて欲しいと願うが、その願いは叶わない。
『あ、ここですね』と言った芽依が見ている看板には『Bar Deepest Snow』と書かれていたからだ。




