第14話
接待自体は特に大きなトラブルも無く、花岡社長の筋トレの話や支店長の趣味のサイクリングの話等を中心とした話題でつつがなく進行した。
匠も時折話に加わりつつ、ビール1杯1,000円·ワイングラス1杯2,000円〜という価格に驚いたり、目の前で調理されるガーリックライスや黒毛和牛のステーキ等の料理に舌鼓を打ったりしていた。
今現在はデザートのジェラートを食べているが、何故か先程までとは違う部屋に案内されている。
匠にはその理由が分からず不思議に思うが、何となく無知を晒したくなくて聞かないことを選択した。
「さて、ではそろそろ行きましょうか」
という花岡社長の声に匠が周りを見るとどうやら全員食べ終わった様子だ。
「支店長、この後は前回と同じお店で大丈夫ですか?」
と花岡社長が支店長に聞くと支店長は『もちろんです』と返した。どうやら花岡社長の行きつけのお店があるらしい。
「朝倉さんすみません、この後は私と支店長で何時ものお店に行きますので一度ここで解散で。代わりと言ってはなんですが、もしよろしかったら奏と2件目でもいかがですか?」
と言いながらクレジットカードを1枚取り出した。法人の経費用のカードだろう。
接待で食事を食べた後の2件目といえば、往々にして女性のいるラウンジやらキャバクラやらだ。
奏を連れて行くわけにもいかないだろうし、匠もあまりああいうお店は得意ではないので解散自体はありがたい。
だが2件目についてはどうだろうか、と奏を見ると奏もまた様子を伺うように匠を見ていた。
奏は匠と目が合うと1つ頷き小さく微笑んだ後。
「ま、折角社長もそう言ってるし、会社のお金で美味しいお酒でも飲みに行きましょっか」
と言いながら奏が花岡社長からクレジットカードを受け取り歩き出したので、匠は花岡社長に今日のお礼を言いつつ奏の後を追いかけた。
――――
2件目に行くことは決まったものの、あまり奏は普段外で飲んだりしないそうで良さそうなお店に心当たりが無いとのことだったので、匠が提案したお店に行くことになった。
タクシーで支店の最寄り駅まで戻ってきつつ、支店がある側とは駅を挟んで反対側の、更に駅前から1つ路地裏に入るとそのお店が見える。
入り口は半地下になっており、掲げられた看板には『Bar Deepest Snow』と書かれている。
ここは匠が初めて創業資金の融資を実行した思い出深いダイニングバーのお店だ。
店長は見た目こそ茶髪にピアスでいかにもといった感じにチャラいが、その実20歳から都内のバーで10年以上修行を続け、30代前半でとうとう自分の店を持つことを決めたという。
創業にあたっての事業計画も堅実でしっかりとしており、希望額の300万円はスムーズに実行へと至った。
開店後も落ち着いた雰囲気と確かな味が話題となり着実に人気店と成りつつあり、テレビにも取り上げられたらしい。
匠がお客として訪問したのは新規開店した日の1回のみだが、集金先になっているので匠と店長は割とフランクに話せる関係だ。
匠がお店の扉を開けると『いらっしゃいませ』と言った店長と目が合う。
「お、朝倉さん今日はお客様として来てくれたんっすね」
そう店長は嬉しそうに言うと、後ろに立つ奏の存在に気がついたようで『おやおや』と小さく口にする。
店長はカウンターを出て匠の隣まで来ると小声で。
「朝倉さんも隅に置けないっすね」
と言ったので、匠も小さく。
「いやいや……取引先の関係で訳あって……そういうのじゃ無いんです……」
と言い訳するが、店長は全く信じていなさそうだ。
「ま、そういうことにしときます。カウンター空いてるんでどうぞ」
そう言った店長の口元は若干ニヤけていたので『次回の集金の時は面倒なことになりそうだ』と思いつつ、匠は奏と共に案内された席に座った。




