過去を嘲笑する
更新が大変遅くなってしまいました!へへ!皆さん、ごめんなさい。明日、序文とあとがきを修正します。
三鷹市の街を、轟音を上げる暴風が荒れ狂っていた。風は建物を容赦なく引き裂き、安らかに眠っていた人々を家ごと飲み込んでいく。街並みは崩壊し、辺り一面は土煙に覆われた。静寂と美しさに包まれていた夜は、蓮による不意打ちによって無残にも打ち砕かれた。
「……生き延びるさ」
蓮は誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
彼が相対しているのは、並の人間でも、強力な魔術師でもない。ガイアの歴史にその名を刻む伝説の英雄。聖剣を振るう偉大なるランスロット、その人だった。やがて土煙が晴れると、眼前には凄惨な光景が広がっていた。
それは、ただ"壊滅的"という言葉だけでは語り尽くせないほどの惨状だった。
「見事な一撃だった。だが、その攻撃で罪なき命をこれほど奪った時点で、お前は一線を越えた」
ランスロットは無傷だった。
あれほどの暴風を真正面から受けたにもかかわらず、身体には傷一つない。衣服すら裂けておらず、付着しているのは土埃だけだった。それだけで、二人のミュトスの実力差は明らかだった。
「今のは異世界の遺産ではないな。何だった?」
ランスロットは、あの竜巻を放った青年の剣へと視線を向ける。
「ん? ああ……正式名称なんだっけ、この剣。そう、その通り。異世界の遺産じゃない。ただの武器の能力だよ」
「つまり、風を放つ剣ということか?」
「それだけじゃない。あんたの剣で、俺の剣に触れてみな」
蓮はそう促した。
ランスロットは意味が分からず眉をひそめる。
「やってみろよ。理論だけじゃ証明できないだろ? 実験だと思ってさ。ほら、触れてみて」
どんな策を弄したところで、自分に傷一つ負わせることはできない。そう確信していたランスロットは、好奇心もあって剣を軽く触れ合わせた。
「じゃあ、いくぞ」
その瞬間、剣の柄に組み込まれた時計仕掛けの歯車が高速で回転を始めた。ギリギリという機械音が夜に響き渡る。そして、刀身から眩い閃光が放たれた。あまりにも強烈な光だった。普通の人間なら数秒間は視界を失い、場合によっては失明していてもおかしくないほどの光量。
ランスロットも、一瞬だけ視界を奪われた。
その隙を逃さず、蓮は両手で剣を握り締める。全力の一撃。狙うはランスロットの心臓。だが――
「先ほどの暴風で私の髪一本傷つけられなかったというのに、胸を斬れば血が流れると思ったのか?」
剣がランスロットの身体に触れた瞬間、刀身は粉々に砕け散った。蓮は苦笑を浮かべる。
「分かってるよ。ただ、あんたの能力を試したかっただけ。でも、これで俺の剣の仕組みは理解できただろ?」
ランスロットは静かに頷いた。
「属性を吸収する能力……そういう剣か」
「正解。満点だ、おっさん。」
蓮は笑みを浮かべる。
「この剣の名前は『エンジンブレード』。属性エネルギーを吸収する能力を持ってる。柄の歯車が十分なエネルギーを集めると高速回転して、その属性を一気に解放するんだ」
「空気はどこにでも存在する。先ほどの風は、この剣にとって最も基本的な攻撃というわけか」
蓮は老騎士へと口元を歪めた。
「へぇ。年寄りなんて時代遅れで頭の固い連中ばっかだと思ってたけど……あんたは初めてまともな老人かもしれないな」
皮肉を込めた言葉だった。
「次はどうする? また複製した剣で挑むのか? 知恵があろうと、経験豊富な戦士には勝てまい」
「その通り。一対一でも、戦闘経験でも、俺はあんたには勝てない。俺は現代の人間で、あんたは戦いと名誉が当たり前だった中世の人間だからな」
「ならば次の手は何だ。まだ口だけで終わるつもりか?」
蓮は肩をすくめた。
現代では、恥を捨てた者ほど成功する。
そんな価値観に慣れきった男には、その程度の挑発など痛くも痒くもない。
「なあ、俺がさっき『あんたは戦争と名誉の時代の人間だ』って言った理由、分かるか?」
ランスロットは片眉を上げる。
蓮の顔から笑みは消えていた。別人のような真剣な表情だった。ランスロットが黙っているのを確認すると、蓮は小さく息を吐いた。
「はぁ……やっぱ人って、相手の表情一つで考え方まで変わるんだな。まったく」
そう言って、再びいつもの軽薄な笑みを浮かべる。
何なのだ、この男は……
ランスロットは内心で呟いた。今まで戦ってきた誰よりも、理解できない相手だった。
「お前を見ていると……甥を思い出す」
ランスロットが不意に口を開く。
本来なら甥の話をする者の声には情が宿るものだ。しかし、その声にあったのは冷たさ――いや、僅かな憎しみだった。
「甥? お気に入りの甥か? それとも一番嫌いな甥?」
蓮は口元を吊り上げる。
「その口ぶりからすると……あんたの王国を滅ぼして、あんたを討ち取った張本人ってところかな?」
その瞳には真剣な光が宿っていた。
ランスロットは、この男が本気なのか冗談なのか、ますます判断できなくなる。
「……いや、甥ではない。姪だ」
「へぇ。男しか王になれなかった時代に、女があんたを滅ぼしたってわけか。プライドは傷つかなかったのか?」
蓮は容赦なくランスロットの過去を抉る。
だがランスロットは動じない。怒りも、羞恥も見せなかった。その身には、もはや誇りすら残っていないかのようだった。
「つまらないな。あんたの時代の人間って、もっと誇り高い奴らだと思ってた。」
蓮は肩を落とす。
「やっぱり『完璧』ってのは感情まで殺しちまうんだな。あんたは……本当に恥を知らない王だ。」
それこそが、ランスロットに最も相応しい称号だった。
「これ以上、お前ほど恥を捨てた男に正攻法で勝てる気はしない。」
蓮は静かに息を吐く。
「――異世界の遺産を使うしかない。」
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