まなか
この小説の主要登場人物の一人である新キャラクターの紹介です! はい!
ここはどこ?私は誰?そして――私は何者?
そんな疑問ばかりが、頭の中をぐるぐると巡っていた。身体が動かない。何が起きているの……?肺の奥に、何かが燃える臭いが入り込んでくる。目を開けようとする。でも、身体はまるで自分のものじゃないみたいに動かなかった。金属がぶつかり合うような音が聞こえる。絶え間なく続く、聞いたこともない衝突音。
ゆっくりと目を開ける。
私は仰向けに倒れていた。
いつもなら澄んだ夜空に星が見えるはずなのに――空は煙に覆われていた。火薬の臭いが辺り一面に漂っている。銃声も聞こえる。全部が燃えていた。視界に映るのは、巨大な炎ばかり。人々の悲鳴には、恐怖と絶望が混じっていた。助けを求めながら、生きたまま焼かれていく。――これが、“地獄”というものなのだろうか。
「まだ生きてるぞ! おい、嬢ちゃん! 聞こえるか!?」
男の叫び声が聞こえた。
軍服を着た男だった。手には銃が握られている。その頃の私はまだ幼くて、目の前の男以外のことなんて、ほとんど認識できなかった。
何か返事をしようとしても、声が出ない。
「チッ……こんなところで時間を無駄にしてる場合じゃ――」
男が小さく呟いた、その瞬間だった。
突然、爆発が起きる。男の身体の半分が、まるで砂のように吹き飛んだ。私が意識を失う前に最後に見たのは――眩しい光だった。その後、何が起きたのかは分からない。
意識を失っていたから。私は死んだの?頭は妙にはっきりしているのに、身体だけが眠っているみたいだった。昔、誰かが言っていた。
“良い子は天国へ行って、お菓子や玩具に囲まれて暮らす”
“悪い子は地獄へ落ちて、油で煮られる”
ここは天国?それとも地獄?私は悪い子なんかじゃなかったのに。
強い光が顔に差し込む。
ゆっくりと目を開けると、その光が目を焼くように痛かった。視界の先にあったのは、天井のライト。真っ白な天井。辺りは静かだった。電気は点いていて、天井のファンが冷たい風を送っている。
私は周囲を見回した。
白い壁。タイル張りの床。並べられたストレッチャー。そして、私もその上に寝かされていた。……だけど。周りを見れば見るほど、吐き気が込み上げてくる。脚のない男。口が存在しない赤ん坊の死体。静かに泣く人。大切な人を失い、声を張り裂けるように泣き叫ぶ人。全部が怖かった。
吐きそう。
「お前は、まだマシな方だ。感謝するんだな」
突然、声がした。
私はその声の方へ視線を向ける。
そこには、一人の男が静かに立っていた。背が高い。鍛えられた身体。黒い髪に、太い眉。青い瞳。黒いスーツに、トレンチコート。年配の男に見えた。
私は“誰ですか”とは聞かなかった。代わりに――
「あなたが……助けてくれたんですか?」
そう尋ねていた。
男は私を見下ろし、小さくため息をつく。
「質問が違うな。本来なら、“お前は誰だ”と聞くべきだった」
男は淡々と続ける。
「……まあ、確かにお前を見つけたのは俺だ。地面に倒れていたお前を、すぐここへ運んだ。お前は瀕死の状態だった」
それが、男の答えだった。
「周りを見ろ。お前は、あいつらみたいな末路を辿らなかっただけ幸運なんだ」
男は、身体を失った患者たちや死体を指差した。
「なあ、嬢ちゃん。お前、名前は?」
名前。……私の名前?思い出そうとする。でも――何も浮かばない。
「思い出せないか。まあいい。お前、一ヶ月も眠っていたからな」
一ヶ月……?そんなに長く?それに――この人は、その間ずっと私を見舞いに来ていたの?
「……おじさん、毎日来てくれてたんですか?」
男は答えなかった。その沈黙を、私は肯定だと思った。
「嬢ちゃん。誰もお前を迎えに来ない」
男は静かに言う。
「つまり、そういうことだ。辛い現実だが、受け入れろ。お前の家族は死んだ。生き残ったのは、お前だけだ」
……なんとなく、分かっていた。見知らぬ男が毎日見舞いに来るのに、親戚一人来ない。それだけで十分だった。みんな、死んだんだ。
「俺は、お前を引き取ることにした」
「……え?」
「質問はするな」
男はそう言い切った。
「俺の名前は小山弘樹。孤児院に行くかどうか、お前に選択肢は与えない。お前は俺の“弟子”にする」
「弟子……?」
男の口から出てくる言葉は、どれも理解できなかった。この人は誰?何が目的なの?“知らない大人には気をつけろ”って聞いたことがある。でも――なぜか、この人から危険は感じなかった。
弘樹はポケットから箱を取り出した。タバコだった。“Peace”のロゴ。彼は一本を口に咥え、そのまま火を点ける。病院の中だというのに。しかも、小さな女の子の前で。そんなこと、お構いなしだった。
「名前を思い出してみろ、嬢ちゃん。養子縁組の書類を作るのに必要だ」
「……私の名前」
頭に力を入れる。必死に思い出そうとする。でも、何も出てこない。そんな私を見て、弘樹はまたため息をついた。そして、煙草の煙を私の顔へ吐き出す。
「お前の名前は――今日から“まなか”だ」
煙草を吸いながら、男は勝手に私の名前を決めた。この人の考えていることは分からない。弟子?私が?
「そういえば、言い忘れていたな」
弘樹は煙を吐きながら、静かに言った。
「俺は“魔導師”だ」
物語には、始まりと終わりがある。これは――私の物語の始まりだった。愛されて、大切にされる新しい人生が始まるのだと、私は信じていた。だけど――まさか。私の“始まり”も“終わり”も。この“小山弘樹”という男によって、永遠に奪われることになるなんて。その時の私は、まだ知らなかった。私の名前は――まなか。
これは、十年前の物語。
この章をお読みいただき、ありがとうございました。SodaKun Out☆!




