戦闘前の話し合い
次の章では、この二人の全面対決が繰り広げられる!勝つのはどちらだ?!
名を藤蓮と名乗った謎のミュトス。
騎士であるランスロットは、自らも名乗らなければならなかった。
相手が未来の時代の英雄である以上、自分の正体を明かすことは明らかに不利になる。それでも、敵が先に名を明かした以上、自らも名乗る――それが騎士の誇りであり、礼節だった。
「藤蓮殿。その名に敬意を表します。私の名は――」
「言わなくていい」
蓮は途中で彼の言葉を遮った。
ランスロットが名乗るのを止めたのである。
「その姿を見れば、あんたが高貴な身分の人間だってことくらい分かる。それに、その剣も人間が造った代物じゃない。神造兵装だろ」
蓮はランスロットが手にする翡翠色の漆黒の剣へと視線を向けた。
その神々しい輝きは、凡俗の武器とは一線を画している。
「驚きました。そこまで見抜くとは。あなたは、この剣の伝承をご存じなのですか?」
「んー……昔、この剣にやたら執着してるヤツと会ったことがあってさ。実物を見て確信したよ。そんな神剣を持つあんたの正体は――フラトン王国の王、ランスロットだ」
ランスロットは思わず息を呑んだ。
蓮は皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「おや? 図星だったか?」
ランスロットは、この男の知識量に少なからず驚いていた。
現代の若者のような服装をしているにもかかわらず、その知識はあまりにも深い。
赤いロングコートを前開きに羽織り、その縁には黄金色のラインが走っている。まるでレーシングカーを思わせるような派手なデザインだった。
黒いカーゴパンツに、コートの下は黒いTシャツ。
そこには髑髏のイラストと「Goth Mommies」という文字が描かれている……いや、そのことは忘れよう。
黒髪に青い瞳。
その顔立ちは、どう見ても日本人そのものだった。
ランスロットは剣を握る手に力を込め、敵の動きを静かに待つ。
「さっきから話してばかりだな。それとも武器を構えて襲ってくる気はないのですか?」
その挑発に対し、蓮は肩をすくめながら穏やかな声で答えた。
「やれやれ。あんた、本当に好戦的だな。勘弁してくれよ。立ち姿と伝承を見れば分かる。あんたはバランス型ミュトスだ。こっちは最初から不利なんだよ。そんな相手に正面から一騎討ちしろって? 悪いけど、お断りだ」
彼はあっさりと、真正面から戦うことを拒否した。
ランスロットは、ガイアでも屈指の英雄である。
その伝説はあまりにも巨大で、歴史に名を刻んだ存在だ。
しかもバランス型ミュトス。
周到な策もなく力任せに挑めば、勝ち目などない。
それこそカイン級の怪物でもない限り。
「正直、召喚されてすぐ戦闘になるなんて思ってもいなかったよ」
その言葉に、ランスロットは眉をひそめた。
「召喚されてすぐ……?」
「ああ。日付が変わった瞬間に召喚されたばかりなんだ。街をぶらついて夜景を眺めてたら、あんたと、このスクラップロボットどもを見つけたってわけ」
彼が言う「スクラップロボット」とは、ゴーレムのことだろう。
「私がここにいるということは、何か異変が起きているのでしょう。俺は武器型ミュトスだ。異世界の遺産がなければ、あんたの前じゃ道端の小石みたいなもんだよ」
その言葉に、ランスロットは思わず笑みを漏らした。
まるで冗談でも聞いたかのようだった。
「その話を信じろと? 私は以前にも武器型ミュトスと戦ったことがあります。その者は圧倒的な武装を操り、私と互角に渡り合いました。しかも、本来の武器すら使わずにです。ましてや異世界の遺産など一度も使っていない」
蓮に学識があるなら、ランスロットには戦場で培った知恵がある。
戦術のあらゆる分野に精通した名将だった。
敵が自らを弱いと称え、相手を持ち上げる。
それは敵の慢心を誘い、油断させるための心理戦として古くから知られている。
だからこそ――
「私は、その手には乗りません」
蓮は口元に笑みを浮かべた。
「俺はそもそも戦士じゃないんだよ。歴史の中じゃ、名無し同然の存在だ。あんたに敵うわけがない。速さも力も、何一つな」
そう言うと、彼は心底うんざりしたような表情を浮かべる。
「まったく……面倒だな。ミュトス同士って、出会ったら絶対に戦わなきゃいけない決まりでもあるのか?」
勝てないと分かっている戦い。
それでも避けられない運命に、彼は深くため息をついた。
やがて片手を天へ掲げ、ランスロットへ視線を向ける。
「それじゃあ――形成」
その瞬間、藤蓮の手の中に一本の長剣が出現した。
一般的な剣とはまるで異なる、見慣れない形状の剣だった。
「そんな剣を見て驚いたか? まあ、これは俺の剣じゃないけどな」
「……つまり、盗んだのですか?」
ランスロットの言葉に、蓮は吹き出した。
「ふふふっ。まあ、そうとも言えるし、違うとも言える。本物はちゃんと持ち主のところにある。俺は設計図だけ写させてもらっただけさ」
ランスロットの表情は変わらない。
「つまり、複製品を作ったということですか。それとも、似た武器を自ら鍛え上げたと?」
蓮は首を横に振る。
「盗んでもないし、作り直したわけでもない。ただ……何て言えばいいんだろうな。『コピー』した。それだけだ」
その説明は、かえってランスロットを混乱させるだけだった。
「……?」
「駄目だな。説明するの、俺には向いてない」
敵を混乱させるには、まず自分自身も混乱していなければならない。
そんな空気すら漂っていた。
「そろそろ決着をつけましょう。話していても埒が明きません」
「その通りだ」
二人は同時に武器を構える。
夜の静寂が張り詰める。
ランスロットの胸には、高揚感が満ちていた。
久方ぶりに、真っ向から剣を交えるに値する敵との決闘が始まろうとしていた。
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