予想外の展開(5)
次の章では、物語の大きな転換点を迎えます!どうぞお楽しみに!
夜の帳がすっかり下りていた。
私とアロは、それぞれ座っていた場所から立ち上がる。
長時間正座していたせいで、足はすっかり痺れ、じんじんと痛んでいた。
「まなか、もう夕方は過ぎた。もうすぐ夜になる。あの正体不明のミュトスに見つかったり、危害を加えられたりしたら困る。早く帰ったほうがいい」
アロは心配そうな声で言った。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、アロ。あのミュトスに見つかる前には家に帰れるから」
しかし、彼は視線を落としたままだった。
「アロ……まだ私の質問に答えてないよ。レイくんも私たちと同じ魔術師なの?」
彼は静かに首を横に振る。
「いや。レイが僕みたいな魔術師じゃなくて、本当に良かったと思ってる。こんな責任を背負わせたくないからね。僕の家では、一族の知識も真実も男子だけが受け継ぐ。だからレイは関係ない。彼女はこの広大な魔術世界とは無縁なんだ」
「なんだか秘密結社側の魔術師って、中世ヨーロッパの血統や後継者を重んじる貴族みたいだね」
アロは小さく微笑んだ。
そして、私に向かって丁寧に頭を下げる。
「会いに来てくれてありがとう、マナカ。君に真実を話せて、心が少し軽くなった。でも……体調が良くないから、外まで見送りに行けそうにない。本当にごめん」
私は慌てて手を振り、笑顔を作った。
「気にしないで! ゆっくり休んで、アロ!」
彼は顔を上げ、隣に立つミュトスへ視線を向ける。
「我が王、ディケロス。マナカを家の外まで送っていただけますか」
静かな口調で頼むと、ディケロスは力強く頷いた。
「王自らの護衛こそ、最上の護衛だ!」
私はもう一度だけアロを振り返り、それから家を後にした。
魔術の世界は、私が思っていたよりもずっと広く、ずっと複雑だ。魔法は決して人類を救うものではない。むしろ政治的な対立を生み、人々を自分たちの利益のために分断してしまう。
ディケロスが私の後ろを歩いている。
その存在感は圧倒的だった。ラインハルトやランスロット、あの夜の怪物やカインほど莫大な魔力は感じない。けれど、その肉体はまさに規格外だった。彼は近接戦闘を得意とするタンク型ミュトス……力だけなら、カインにも匹敵するのだろうか。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかアロの家を離れていた。
「我の役目は終わった。では、我は王国へ戻るとしよう。恋人よ」
ディケロスは背を向け、家へ戻ろうとする。
「待って!」
思わず声をかけていた。
どうして引き止めたのか、自分でも分からない。
彼は立ち止まり、肩越しに私を見てから、ゆっくりと振り返る。
私は深く頭を下げた。
「どうか最後までアロを守ってください。本当に……助けてくれてありがとうございます」
「む?」
困惑したような声が返ってくる。
「どうした、小娘。なぜ我に頭を下げる? 我の召喚者も、お前に同じことをしていたな」
私は少しだけ顔を上げた。
「あっ……これは日本で相手への敬意を表す方法なんです」
彼の口元がゆっくりとつり上がり、次の瞬間、大きな笑い声が響いた。
「フッフッフッ! 気に入った! お前の敬意、この王が受け取ろう! 我が世界を征服し、すべてのミュトスを打ち倒して配下に加えた暁には、お前と我が臣下との婚礼を開いてやろう!」
再び豪快に笑う。
――結婚。その言葉を聞いた瞬間、顔が一気に熱くなった。私とアロが……結婚?それに今、この人……世界征服って言った?
「世界征服?」
彼は誇らしげに笑う。
「そうだ! 我の夢は、この目の届くすべてを支配すること。この世界すべてを我が領土にするのだ!」
堂々と夢を語るその姿は、どこか憎めなかった。
本当に、『優しい巨人』という言葉が似合う人なのかもしれない。
「そうだ、良いことを思いついた! 他のミュトスをすべて倒した後、お前のミュトスと友好的な勝負をしようではないか! 我が勝てば奴は我が臣下。もし我が負けたなら、未来に征服した領土の一つを褒美としてくれてやろう!」
笑顔と豪快な笑い声を残し、ディケロスは屋敷へ戻っていった。
「私も帰ろう……」
私は小さく呟き、歩き始める。
今日は本当に特別で、不思議な一日だった。私もアロも、この戦争のプレイヤーであり、魔術師だったと知った。そして、冬夜さんの冷酷で計算高い一面も見てしまった。
そういえば――冬夜さんは、最初からアロが魔術師だと知っていたのだろうか。だから私をアロから引き離そうとしたのだろうか。
私は当てもなく夜道を歩き続ける。
今夜は妙に静かだった。冷たい風が吹き、澄んだ月が夜空を照らしている。本当に綺麗な夜だ……学校が襲撃され、あの神父に命を狙われた夜も、こんな美しい夜だった。
街灯だけが道路を照らしている。
それなのに、人影はどこにもない。仕事帰りの人もいなければ、仲睦まじく歩く恋人たちも、夕食へ向かう家族の姿もない。
妙すぎる。
「……気味が悪い」
私は小さく呟いた。
本当に異様だった。
人間どころか、一匹の動物さえ見当たらない。物音ひとつ聞こえない。世界そのものが死んでしまったかのような静寂だけが広がっていた。
「ようやく見つけた」
その声を聞いた瞬間、背筋を冷たいものが駆け抜けた。
私はその場で凍りつく。
恐怖で体が動かない。
震えながら、ゆっくりと声のした後ろを振り返る。
そして、その人物の姿を見た瞬間――凍りついていた体から力が抜け、恐怖は消え去った。
失っていた勇気が戻ってくる。
「家に帰ったら、たっぷり説教だ」
そこに立っていたのは、冬夜さんだった。
顔には笑みを浮かべている。けれど――何かがおかしい。
その笑顔は作り物だった。怒りを隠すために、無理やり笑っているようにしか見えなかった。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




