交差する線
魔法少年が一線を越えすぎていると思いませんか?!またもやスローペースな章!!作者はメインストーリーをとてもゆっくりと進めています!
「私の彼氏と距離を置け……?」
私は信じられないという表情で冬夜さんを見つめた。
「何を言っているんですか、冬夜さん。それはさすがに一線を越えています」
「言いたいことを言っただけさ。それに、君は危うく彼に魔術の存在を明かすところだった」
アロのことに触れた瞬間、彼の声には冷たさが混じっていた。
「どうしてそんなに私の彼氏に厳しいんですか? 彼の何が気に入らないんです?」
私は問いかけた。
冬夜さんは肩をすくめる。
「別に興味はないさ。だが考えてみろ。もし君が彼に魔術が実在すること、この戦いが異世界まで巻き込んだ戦争で、アニメみたいな空想じゃないことを話したらどうなる?」
「アロは私を支えてくれます。彼は私の心の支えです。全部話せたら、きっと気持ちはもっと楽になります」
冬夜さんは静かに首を振った。
「君の彼氏は、恋愛ホルモンに振り回されている普通の高校生にすぎない。君を守ろうとして、正義の味方にでもなったつもりで危険へ飛び込むだろう」
彼は私を真っ直ぐ見据えた。
「教えてくれ。もし彼がカインのようなミュトスを目の前にしたら、どうなる?」
その声には一切の感情がなかった。
「恐怖で腰を抜かす。そして――」
一拍置いて、淡々と言う。
「たった一撃で終わりだ。肉片と血を地面に撒き散らして死ぬ」
その言葉と同時に、私の頭の中へ映像が浮かぶ。
アロが殺される姿。虫でも払うように。ハエでも潰すように。ミュトスたちは彼の存在すら気に留めず、その命を奪う。
その時、私は何ができる?助けられる?……できない。感情に流されて、一番大事なことを忘れていた。だから私は今までアロに、自分が魔術師の世界へ関わっていることを話さなかった。普通の日常を守りたかったから。アロだけは、この危険な魔術世界から遠ざけたかったから。
……冬夜さんの言う通りだった。アロは優しすぎる。私を守るためなら、迷わず命を懸ける人だ。
私は恥ずかしさで俯いた。
冬夜さんの言葉は正しかった。
「……そうですね」
「え?」
「あなたの言う通りです。私が考え違いをしていました」
私は小さく頭を下げる。
「アロに話せば、私のせいで命を落とすかもしれない。あるいは他のプレイヤーに狙われるかもしれない。だから止めたかったんですよね」
「いや」
冬夜さんは即座に否定した。
「それは違う」
「……」
私は顔を上げる。
彼の瞳を見つめた。
胸がざわつく。
これから彼が口にする言葉は、一生忘れられないものになる。
そんな予感がした。
「小山くん」
冬夜さんは冷静な口調で告げる。
「君に彼氏と別れろと言ったのは、そんな理由じゃない」
「え……?」
「単純に、あんな弱い男は認められない」
その一言が胸に突き刺さる。
「見ていて不快だ。存在する価値も感じない」
またアロを侮辱した。
私は間違っていた。
冬夜さんは変わったんじゃない。最初からこういう人だったのだ。優しい言葉も。師匠のような振る舞いも。全部、表向きの顔だった。これこそが本当の姿。醜い世界――いや。魔術世界の醜い一面。
「魔術師たるもの、欲深くあれ。金はいくらでも求めろ。そして感情に流されるな」
冬夜さんは淡々と続ける。
「魔術の秘密を守れと言ったのも、彼と縁を切れと言ったのも同じ理由だ」
彼は私を見下ろした。
「君の彼氏は、どうしようもない役立たずだからだ」
……やっぱり同じだ。冷酷で。傲慢で。私は違うと思っていた。でも違わなかった。
彼と、彼のミュトスであるラインハルト。二人はよく似ている。他人を冗談みたいに扱い、力のない者を見下し、その優越感に浸る。あの傲慢な黄金の英雄霊と、何も変わらない。
私たちは再び歩き始めた。
会話はない。
私は怒っている。
冬夜さんは、自分の言いたいことを言い切って満足している。
「仲間」だなんて。笑わせない。きっと利用価値がなくなれば、平気で私を切り捨てる。そんな人だ。
その時――冬夜さんが立ち止まった。
私も足を止める。
「そろそろだな……」
彼は小さく呟いた。
何が?
彼が見つめているのは、二軒の家の間にある空き地だった。そこには何もない。家を建てられそうな更地が広がっているだけ。
「中へ」
冬夜さんが言う。
そのまま空き地へ歩いていくと――姿が消えた。
私は目を擦る。
……いない。
冬夜さんが消えた。
私は小さくため息をつく。
「もう驚く必要なんてないよね……」
独り言のように呟く。
「これが魔術なんだから。常識外れのことが起きるのも、受け入れないと」
私はゆっくりと一歩踏み出し、その空き地へ向かった。
その瞬間――思わず目を見開く。
何もないと思っていた場所に、今は堂々と巨大な屋敷が建っていた。
「サンティーノとカインの一件のあと、ここへ来るよう言った理由がこれだ」
冬夜さんは少し誇らしげに笑う。
「この屋敷は代々の先祖たちが高位の魔術で守ってきた。認識阻害、侵入者探知、そして何重もの防御結界。ほかの魔術師への備えも万全だ」
……先祖の功績を自慢しているようで、少し変な感じがする。
「いつまで外にいるんだい? レディーファーストだ。先に扉を開けてくれ」
冬夜さんは微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、なぜか胸がざわつく。
……本当に変な魔術師だ。
今ではもう、私は彼を好きになれない。
私たちは名ばかりの仲間だ。
私は扉を開け、中へ入る。
そこには以前と変わらない、西洋中世風の豪華な屋敷が広がっていた。
……いや。
屋敷と呼ぶのすら失礼かもしれない。
まるで王侯貴族の館だった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
低く落ち着いた声が響く。
ランスロットだ。
相変わらず、浮浪者のように見える不思議な服装をしている。
私は挨拶を返さなかった。
その様子だけで、彼は何かを察したようだった。
「お嬢様」
ランスロットが静かに尋ねる。
「今日は、ずいぶんとお顔から笑みが消えておられますな」
私は冬夜さんへ視線を向ける。
それから、答えを待つランスロットを見る。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




