魔術師は時代遅れだ
激しい議論が繰り広げられている!冬夜の本当の姿とは?彼は一体どんな人物なのか?
二人は互いを見つめ合っていた。
どちらも視線を逸らそうとしない。
その空気の張り詰め具合が伝わってきて、私はアロのことが心配になった。アロは冬夜さんのことを知らない。冬夜さんが魔術師であり、普通の人間にはできないことができる存在だということを知らないのだ。
私はアロの腕を引いて、自分の方へと下がらせた。
「二人ともやめて。アロ、お願いだから落ち着いて。身体によくないよ」
アロはそこでようやく、自分が今まで私に見せたことのない感情を露わにしていたことに気づいたようだった。
「ごめん、まなか。嫌なところを見せてしまったかな」
そう言って深呼吸をする。
心を落ち着かせるためだろう。
アロが落ち着いたのを確認してから、私は冬夜さんの方を向いた。
「何をしに来たの、お兄さん?」
そう尋ねた。
"お兄さん"という言葉が、まるで悪口のように口から出る。
勝手に偽の身分を作り、私の従兄だと名乗るなんて。私は彼のことを善良な魔術師だと思っていた。ヒロキみたいな人ばかりじゃないと思っていた。けれど今日、その考えは間違いだったと証明された。彼もまた、他の魔術師たちと同じように人を操ろうとする。
「どうして黙ってるの? 答えてよ!」
命の恩人であり、私が今生きている理由でもある相手に声を荒げたのは、これが初めてだった。
「どうしてここに来たかって? 君の件を片づけるためさ」
「私の件?」
「そう。忘れたのかい? 君はあのテロ事件のあと丸一日行方不明だったせいで、学校から死亡扱いされていたんだ」
冬夜さんは肩をすくめた。
「だから正式に、生存者として登録し直しておいた」
その顔には笑みが浮かんでいた。
いたずらを成功させた子供のような笑みだ。
……少し責めすぎたかもしれない。
「それと、君を迎えに来たんだ。帰るぞ」
「え?」
思わず目を見開いた。
どうやらアロもその考えが気に入らなかったらしい。彼は私たちの間に割って入った。今は私と冬夜さんの間に立っている。
「彼女はどこにも行きません」
冬夜さんは眉を上げた。
「君にそれを止められるとでも? 恋だの愛だのに浮かれて、ホルモンが暴走しているだけの十代が」
真正面からアロを侮辱した。
その瞬間――私の中で何かが切れた。
気づけば私は冬夜さんの襟を掴んでいた。
「アロを侮辱しないで。あなたでも許さない」
彼は誰よりも先に私の人生へ入ってきた人だ。養父から虐待され、ゴミのように扱われていた私。養父の死後、家族もいなくなった私。そんな私の傍にいてくれたのはアロだった。誰もいなかった時も。そして今も。これからもずっと。私はそう信じている。それが私の愛だ。
通りを歩いていた人たちがこちらを見始めた。足を止め、小声で何かを囁き合っている。
そんなことはどうでもいい。アロを侮辱した時点で、冬夜さんは一線を越えた。
「まなか、みんな見てる。やめよう」
アロが私を後ろへ引いた。
けれど冬夜さんへの怒りは消えない。簡単には消えてくれそうになかった。
「家に帰った方がいい」
アロが耳元で囁いた。
「え?」
「理由は分からないけど……君の従兄さん、危険な感じがする。だから彼と一緒に行った方がいい」
私はアロを見る。
「アロ……私はこの人となんか行かない。私は自分で――」
「恋人の言うことは聞いておくべきだよ、まなかちゃん。そうしないと、お兄ちゃんは怖いからね」
冬夜さんはそう言って笑った。
その笑みは、――言うことを聞け。そう語っていた。
彼は私より遥かに強く、経験も豊富だ。
高位の魔術師。私が戦って勝てる相手じゃない。もしアロまで巻き込まれたら――いや。考えたくもない。
「それじゃあ失礼しようか、まなかちゃん」
冬夜さんは私の手を取った。
私は怒りと――悲しみの中で俯く。
アロに何も言えないまま。
冬夜さんは歩き出し、私は半ば強引に連れて行かれる。
視界の端で、アロの姿が少しずつ遠ざかっていく。
それを見ていることしかできなかった。
歩いている間、私たちは一言も口を利かなかった。
アロを侮辱されたこと。
そして私が冬夜さんの襟を掴んだこと。
お互いにわだかまりが残っているのだろう。
「小山くん」
冬夜さんが声をかけてきた。
いつもの調子に戻っている。
まるでアロとの会話を都合よく操作し、私の従兄だと信じ込ませた人物とは思えない。
まさに魔術師だ。
「何ですか?」
私は低い声で返した。
今は彼と話す気分じゃない。
「お腹は空いていないかい? 何も食べていないだろう」
彼は続ける。
「家の近くに『庄屋』っていう中華料理店があるんだ。今日は中華にしないか? 昨日初めて魔術世界の料理を食べたんだから、普通の食事が恋しいだろう?」
「あなたは誰なんですか?」
「……は?」
私たちは同時に足を止めた。
向かい合う。
「あなたは誰なんですか、冬夜さん? 何なんですか?」
私はまっすぐ彼を見た。
「人間なんですか? それとも魔術師なんですか?」
「何を言ってるんだい? 君のために言っておくけど、魔術師だって人間だよ」
冬夜さんは首を傾げた。
「ああ、まだ彼氏の件で怒ってるのかい?」
「ふざけてるんですか!? これはコメディじゃないんですよ!」
私は叫んだ。
「これは私の人生なんです! なのにあなたは勝手に踏み込んできて――!」
冬夜さんは静かに首を振った。
「干渉しているわけじゃないよ、小山くん」
そして真っ直ぐ私を見る。
「忘れたのかい? 君がいたから私は生きている」
その声は穏やかだった。
「だから私は、君を守ろうとしているんだ」
「守る……?」
私は呆れたように彼を見る。
正気なのだろうか。
どこかネジが外れてしまったんじゃないか。
そう疑った次の瞬間――彼の言葉が私の背筋を凍らせた。
「それとね、小山くん。あまり落ち込んだり、駄々をこねたりしないでほしいんだけど……」
冬夜さんは少しだけ目を細めた。
そして告げる。
「君には、彼氏と距離を置いてもらいたいんだ」
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