小さな悪ガキ
この時点で、作者は物語を進めること以外何もしていない!この小説はどうなっているんだ?!この小説のジャンルは何なんだ?!
ルークは僕たちに一本ずつソーダの缶を渡した。
私たちは缶を開け、飲み始める。
「やっぱりソーダは最高だよな! 夏だろうが冬だろうが関係ない! うまいソーダは心も体もリフレッシュさせてくれるんだ!」
ルークは誇らしげにそう言い放った。
それに対して、アロは微笑みながら頷く。
「確かにそうだね、ルーク。季節に関係なく、ソーダや冷たい飲み物はみんなに愛されていると思うよ」
「私は……そうでもないけど……」
私は小さな声で呟いた。
アロには聞かれたくなかったからだ。
私は冬が大嫌いだ。その上、冷たい飲み物なんて飲んだら体調を崩してしまう。そうなれば一週間は寝込むことになる。
「何か言ったかい、まなか?」
アロが尋ねてくる。
「ううん!」
私は慌てて答えた。
そして胸を撫で下ろす。
よかった。聞かれていなかったみたいだ。これで私のイメージは守られた。
「ところでさ、まなか」
ルークが私に声をかける。
「ルーク、人を下の名前で呼ぶのは失礼よ」
「はぁ? 何言ってるんだ? 俺が失礼? アロだってまなかって呼んでるじゃん!」
私の眉がぴくりと動いた。
「信じられない……!」
今すぐ飛びかかって思いきり殴ってやりたい。
そんな私を落ち着かせるように、アロが肩に手を置いた。
「落ち着いて、まなか。ルークは日本の文化に詳しくないんだ」
「でも――」
「僕が説明するよ」
アロはルークの方を向く。
「日本では、あまり親しくない相手を下の名前で呼ばないんだ」
「でも俺、お前のことアロって呼んでるぞ?」
「それは僕たちが幼なじみで親友だからだよ。長い付き合いだから、下の名前で呼び合ってるんだ」
「じゃあ、なんでお前は彼女を下の名前で呼んでるんだ?」
「僕はまなかの恋人だからだよ」
そう言ってアロは微笑んだ。
「だから僕はまなかって呼ぶ。でも君にとって彼女は小山さんだ。同い年だし、女性なんだから『小山さん』が正しいよ」
「へぇー! また一つ賢くなった! 毎日何かしら新しいことを学べるって本当なんだな!」
相変わらず騒がしいし、そこまで面白くもない。それでもアロは彼のことを気に入っている。きっと男同士の友情ってこういうものなのだろう。本当に不思議だ。
すると私は、ふと疑問に思った。
「ねえ、ルーク」
「ん?」
「私たちがあなたをルークって呼ぶのは、あなた自身がそう呼んでほしいって言ったからよね? それにサラ先生もそう呼んでいるし。だから誰もあなたをジェーンって呼ばない」
「うん」
「でも、どうして今まで誰にも注意されなかったの?」
ルークは首を傾げた。
「何を言いたいのかよく分からないけど、俺はいつもみんなを名前で呼んでたぞ? ノート見て覚えてたし。止めたのはお前が初めてだ」
私は顔を両手で覆った。
恥ずかしいからではない。呆れたからだ。
「日本人って、名字を先に書いて名前を後に書くって知ってた?」
ルークの顔が固まった。
「えっ!?」
目を見開く。
「じゃあ俺……今までずっと名字で呼んでたのか!?」
しばらく沈黙したあと。
「だから誰も訂正しなかったのか!? 俺、最初から正解だったってこと!?」
頭を掻きながら叫ぶ。
本当にこの人は天才的な馬鹿なのかもしれない。あるいは運だけで生きているのか。たぶん後者だろう。
私はソーダを一口飲んだ。
瞬間――体に寒気が走る。
冷たさが神経を攻撃してくる。
喉が悲鳴を上げていた。
冬に炭酸は禁止にするべきだと思う。
本気で。
「まなか、大丈夫?」
アロが心配そうに覗き込む。
私は慌てて元気そうな顔を作った。
「だ、大丈夫! 本当に平気だから!」
「アロ、お前の彼女、絶対むせてるだろ。もしかして猫でも絞めたのか?」
ルークが茶化す。
私は殺意のこもった目で睨みつけた。
もし一人だけ殺しても許される法律があるなら、今この瞬間に実行していただろう。せっかくのデートを邪魔しやがって。本当に邪魔者だ。
「なるほどなるほど。最近の若者は随分と品がなくなったものね」
女性の声が聞こえた。
四十代くらいの女性が私たちの会話に入ってくる。
私は少し笑顔になった。
この人だけはルークを黙らせられる。
私たちの英語教師、サラ・ジェーン先生だ。ルークは突然現れた母親に驚いていた。
「若者よ。私はそんな風に育てた覚えはありません」
先生は腕を組む。
「小山さんに向かって何て口の利き方をしているの?」
ルークの肩がびくりと震えた。
「今月はゲーム禁止です。それが罰です」
絶望した顔になるルーク。
「今すぐ謝りなさい」
「ご、ごめんなさい、まなか!」
その直後、ぺしっ。
先生の平手がルークの頭に飛んだ。
私は笑いそうになる。
「日に日に失礼な子になっていくわね!」
先生はため息をつく。
そしてアロへ視線を向けた。
「少しは親友を見習いなさい。アロ君は生徒の模範よ」
そう言うと先生は丁寧に頭を下げた。
「いつもこの問題児の面倒を見てくれてありがとう」
アロも礼儀正しく頭を下げる。
「いえ。ルークは大切な友達ですから」
私も慌てて頭を下げた。
担任の先生に挨拶しないなんて失礼だ。
「先生、お疲れ様です」
先生は優しく微笑んだ。
「二人とも、良い一日を過ごしてね」
私たちが顔を上げると、ルークがおずおずと口を開く。
「それで……母さん。もう行っていい?」
先生は冷たい視線を向けた。
「ダメです」
即答だった。
「あなたは私と一緒に来なさい、このいたずら小僧」
「えぇぇぇぇ!?」
先生はルークの耳を掴む。
「痛い痛い痛い! 母さん、やめて!」
「黙りなさい」
そのままルークは引きずられていった。
私はその後ろ姿を見ながら思った。
少しだけ――静かになったな、と。
この章をお読みいただき、ありがとうございました! SodaKun ☆!




