肖像画の道化師
今日はドラえもんの漫画を読んでいました。最初の章がもう最高でした。私の幼少期はこの素晴らしい番組によって形作られました。
肖像画の男は道化師の格好をしていた。
赤、黄、青の派手なジェスター服を身にまとい、頭には間抜けな道化帽子まで乗せている。
その姿はどう見てもピエロだった。
――そして、そいつが私にウインクした。
待って……今、ウインクした?
「おおっ! なかなか面白そうな人たちが来たねぇ!」
肖像画が喋った。
動いている。
絵が動いている。
生きている。
「君たちは誰だい? 何の用かな?」
男は冬夜さんを指差した。
「俺は冬夜京太郎だ。扉を使いたい」
「冬夜? 冬夜?」
男は首を傾げる。
「冬夜ガンドマルと何か関係があるのかい?」
そう言うと、突然指を鼻の中へ突っ込んだ。
「うわ……」
しばらく鼻をほじった後、再び口を開く。
「まあ、関係があろうとなかろうとどうでもいい! 合言葉を言え! 合言葉は何だ! 合言葉がなければ、私の扉は絶対に開かないぞ!」
肖像画は私たちを睨みつけた。
……この家、どうなっているの?
なんでこんなに変なの?
「合言葉は“バズビー”だ」
冬夜さんの答えに、道化師は片眉を上げた。
「本当にそれが合言葉かい?」
「ああ。間違いない。1956年、最初のヨーロピアンカップ以来、一度も変わっていない」
道化師は顎を擦りながら私たちを見つめる。
「一人、二人、三人……。なるほど、三人か」
しばらく考え込んだ後、頷いた。
「よし。合言葉は正しい。ごゆっくりどうぞ」
すると肖像画が横へとスライドした。
まるで扉のように。
その先には隠し部屋が現れる。
私たちは中へ入った。
「どのような合言葉なのですか?」
ランスロットが尋ねる。
「信じるかどうかは自由だが、実はあれ、合言葉じゃない」
「えっ!?」
私とランスロットは同時に冬夜さんを見た。
ランスロットは声こそ出さなかったが、明らかに驚いている。
「長い話になるんだがな。曾祖父がかなり変人だったんだ。この道化師の肖像画を防犯用に作ったんだが――」
冬夜さんは苦笑した。
「問題は曾祖父が記憶喪失だったことだ。設定した合言葉を自分で忘れた」
「それで、どうやって入れるのですか?」
冬夜さんは笑う。
「後でわかったんだよ。この道化師も記憶喪失になっていたって」
「は?」
「つまり、こいつも本当の合言葉を覚えていない。だから曾祖父は毎回、自信満々に適当な言葉を言っていた。そして道化師も『なるほど、それが正解だな!』って納得していたんだ」
冬夜さんは肩をすくめた。
「必要なのは自信だけだ」
笑いたい。
でも笑っちゃいけない気もする。
道化師と曾祖父の会話を想像してしまった。
創造物は創造主を映す鏡だというけれど、本当にその通りだ。
二人揃って記憶喪失なのだから。
「冬夜さん、どうしてここに来たんですか? 私、学校に遅れそうなんですけど」
「俺の方法ならすぐ着く」
「その方法って?」
冬夜さんは頷いた。
そして歩みを止める。
私たちも足を止めた。
この部屋はとても広い。
けれど、他の部屋とはまるで違っていた。
壁はくすんだ色で塗られ、照明も薄暗い。
全体的に古びていて、どこか荒れ果てた印象を受ける。
そして部屋の中央には―一枚の扉が立っていた。
ただの木製の扉だ。
ごく普通の扉。
……まさか、この扉を見せるためだけに連れて来たの?
しかも、どう見ても普通なんだけど。
冬夜さんがこちらを向く。
「小山くん。ドラえもんって見たことあるか?」
「何ですか、その質問。むしろ子供の頃に見てない人なんているんですか?」
「どこへでも行けるドアの道具を覚えてるか?」
「どこでもドア? それがどうしたんですか?」
冬夜さんは不敵な笑みを浮かべた。
「ある日本人の天才魔術師がいてな。1996年に漫画が終わったことを受け入れられなかったんだ」
どこか寂しそうな笑みだった。
「藤本弘先生が亡くなったことを惜しんで、その人は敬意を込めて“本物のどこでもドア”を作った」
私は思わず扉を見る。
そんな理由で?
でも――少し素敵な話だと思った。
私は連載当時を知らない。
だからその魔術師の気持ちを完全には理解できない。
それでも。
未来の子供たちに素晴らしい思い出を残してくれた藤本先生には感謝したい。
「どこへでも行ける、ですか」
ランスロットが呟く。
「その情熱は見事ですね」
そして真剣な表情になる。
「そのような魔道具は奇跡に匹敵します」
私は首を傾げた。
冬夜さんが説明してくれる。
「普通の魔法は、科学でもできることを別の方法でやっているだけだ。科学は機械を使う。魔法は自然現象を利用する」
「待ってください! じゃあ魔法って……科学なんですか?」
冬夜さんは頷く。
「そう言ってもいい。でも、これは別格だ」
彼は扉へ視線を向けた。
「ワームホール理論自体は存在する。だが、人類はまだ理解できていない。そんな現象を再現する装置を作るなんて、もはや奇跡だよ」
「つまり……その人が天才だったってことですか?」
自分で言いながら、あまり説得力がない気がした。
「まあいい。これ以上話していたら学校に着かない」
「あっ、そうでした!」
私は前へ出る。
ドアノブに手を掛けた。
見た目は本当に普通の扉だ。
これがワームホールと同じ原理で動くなんて信じられない。
冬夜さんが咳払いをした。
「小山くん。実は少し問題がある」
「問題?」
嫌な予感しかしない。
壊れているとか。
命に関わるとか。
充電が必要とか。
これ以上遅刻したくないんだけど。
「壊れてるんですか?」
「いや」
「電池切れですか?」
「違う」
「じゃあ何ですか?」
「普通のどこでもドアとは少し違う」
「違う?」
冬夜さんは肩をすくめた。
「ほら、アニメ版みたいに好きな場所へ一瞬で行けるわけじゃないんだ。仕組みは似ているが、目的地へ瞬間移動するには条件がある」
「条件?」
「まあな。もし君が――なら、数分で着くんだが……」
冬夜さんはそこで言葉を切った。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




