ウィンク
主人公はどんな決断を下すのだろうか?読んで確かめてみよう。
「日本の大統領は、今回の事件における判断ミスについて謝罪しました。また、多数の犠牲者を出した学校では、亡くなった生徒たちを追悼する式典が開かれる予定です」
ミアがそう告げた瞬間――私は思わず立ち上がった。
行こう。
私はその式典に参加することを決めた。
東也さんは新聞を閉じる。
そこでニュースは途切れた。
「どこへ行くんだ、小山くん?」
その言葉に、私は足を止めた。
「どこへ行くと思いますか?」
私は問い返す。
「その悲しい追悼式に出るつもりか?」
「行かなきゃいけません……。生徒としての義務ですから」
ランスロットが一歩前に出た。
「お嬢さん、失礼に聞こえたら申し訳ありませんが、出席しない方がよろしいかと」
「どうしてですか?」
大事なことだ。
アロはもうこの世にいない。
彼に会える最後の機会なのだ。
「敵はいつ襲ってくるかわかりません。戦いは夜だけに起こるものではないのです。ミュトスはいつでも、どこでもあなたを襲えます」
私の目に涙が滲む。
感情が抑えられない。
誰の言葉も耳に入らなかった。
「私は……こんな人生を望んだわけじゃないんです。大切な人たちを失った。……大好きだった人まで失ったんです」
「お気持ちは理解しております。しかし今のあなたは心が大きく揺れている状態です。そういう時こそ召喚者は狙われやすい」
「狙われやすい?」
「説明いたしましょう」
東也さんが話し始めた。
「小山くん。君はミュトスに勝てるか? ランスロットと戦って勝てると思うか?」
「何を言っているんですか。そんなの一瞬で殺されますよ」
――あ。
その瞬間、私は気づいた。
認めたくはない。
けれど、それが現実だった。
「その顔を見ればわかる。ランスロットの言葉の意味が理解できただろう。ミュトスは召喚者のマナによって存在を維持している。そして魔術師は敵のミュトスには勝てない。だから敵の召喚者を狙う方がずっと簡単なんだ。特に君みたいな駆け出しの魔術師ならな」
駆け出しの魔術師。
悪気がないのはわかっている。
けれど、その言葉が少し胸に刺さった。
東也さんはため息をつく。
「どうせ止めても聞かないんだろ? 別に無理に止めるつもりもない。ミュトスはどこからでも呼び出せるんだから」
私は首を傾げた。
「え?」
「今の話、聞いてなかったのか?」
私は首を横に振る。
「はぁ……。昨日、兄さんの日記を読んでいてわかったんだが、ミュトスの肉体はマナ粒子で構成されている。極限まで圧縮されているから実体があるように見えるだけで、本当は違う。言ってしまえば幽霊みたいなものだ」
東也さんは続ける。
「ミュトスは本当の意味で肉体を持っていない。そして召喚者のマナで動いている。だから召喚者は絶対命令を出せる」
「絶対命令?」
「そうだ。ランスロットは君と魂で繋がっている。つまり、君は彼の主人なんだ。理論上はどんな命令だってできる。だから、どこにいても彼を呼び出せる」
「待ってください! それって、ピーターさんがあなたのミュトスを霊体化させた時みたいにですか?」
「ああ。だからハイドリヒは今でもあの日のことで怒っていて、ずっと俺を無視している。召喚者じゃなかったら、とっくに殺されてるだろうな」
東也さんは疲れたように息を吐いた。
あの巨大な自尊心を持つ英雄を相手にするのは本当に大変そうだ。
「私は納得できません」
ランスロットが口を開く。
「お嬢さんを守るのは私の務めです。目的地まで護衛いたします」
「えっ!?」
私は思わず声を上げた。
「い、いえ! 気持ちはありがたいですけど、一人で行けますから!」
正直、彼が隣を歩いていたら目立ちすぎる。
そんな理由もあった。
「その必要はない、ランスロット」
東也さんが言う。
「敵はどこにでも現れます」
「君の言うことは理解している。だが昼間に小山くんが襲われることはない」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「召喚者の大半は魔術師だからだ。魔術世界の存在を一般人に知られてはいけないというルールを知っている」
「しかし私たちは神父に襲われましたが?」
ランスロットの反論はもっともだった。
サンティーノ・フェボは魔術師ではない。
魔術師の事情など気にしないだろう。
だが東也さんは首を振る。
「サンティーノだって昼間は手を出さない。三勢力間で結ばれた条約があるんだ。魔術秘匿の原則を守り、他勢力の活動に直接介入しない。だから教会も公衆の面前で魔術師に手を出せない」
「なるほど……」
ランスロットは完全には納得していないようだった。
騎士として、お嬢様を守れないことに思うところがあるのだろう。
東也さんは私へ向き直る。
「小山くん、ついて来い。俺の方法なら学校まで早く着ける」
そう言うと、彼は歩き出した。
私はその後を追う。
ランスロットも続いた。
部屋を出る。
広大なリビングホールは何度見ても見事だった。
置かれている家具はどれも骨董品ばかり。
この屋敷全体が西ヨーロッパの中世を思わせる雰囲気に包まれている。
正面には巨大な肖像画が飾られていた。
とても大きな肖像画だ。
――その中の男が、私に向かってウインクした。
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